デジタル田園健康特区の先駆的な取り組みに注目 加賀市アーキテクトと有識者による特別対談

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
順天堂大学情報センター本部 客員教授 阿曽沼 元博氏とデジタル田園健康特区 加賀市アーキテクト 唐澤 剛 氏
3つの自治体が共同で取り組む「デジタル田園健康特区」。DXなどにより地域や日本がどう変わるのか? 加賀市アーキテクトと有識者による特別対談です!

01
3地域で共同推進、新しい形の国家戦略特区

――デジタル田園健康特区の概要を教えてください

順天堂大学情報センター本部 客員教授 阿曽沼 元博氏
順天堂大学情報センター本部 客員教授
阿曽沼 元博(あそぬま もとひろ)
1974年慶應義塾大学卒業。医療法人社団滉志会社員・理事。NPO法人TeamNET副理事長・Founder、電子医療情報学、医療制度・政策を専門とし順天堂大学客員教授も務める。

阿曽沼:国家戦略特区には3つの類型があります。都道府県又は一体となって広域的な都市圏を形成する区域を指定する一般的な特区、複数分野の大胆な規制改革とデータ連携基盤を活用して複数の先端的サービスを実施する区域を指定するスーパーシティ型特区、そして今回初めて指定された、革新的な事業を連携して推進する市町村を、地理的な連担性にとらわれずに指定する革新的事業連携型特区、いわゆるバーチャル特区の3つです。今回は、石川県加賀市、長野県茅野市、岡山県吉備中央町の広域に跨る3地域を一体的にバーチャル特区として指定し、「デジタル田園健康特区」と名付けてスタートしました。

具体的には、人口減少や少子高齢化の中でデジタル技術を駆使し、地域住民の方々に対するサービスレベルを高めつつ、課題になるような規制制度改革を進めていきます。

デジタル田園健康特区 加賀市アーキテクト 唐澤 剛 氏
デジタル田園健康特区 加賀市アーキテクト
唐澤 剛(からさわ たけし)
1980年早稲田大学卒業。同年、厚生省に入省し保険局長、内閣官房地方創生総括官を歴任。現在は社会福祉法人サン・ビジョン理事長、佐久大学客員教授などを務める。

唐澤:私がアーキテクト(プロジェクトの設計・調整・管理などを行うポジション)を務める加賀市は、石川県の南部にある市で人口7万人弱ですが、先進的な取り組みに意欲があります。マイナンバーの普及率も全国最高レベルで、デジタルに対して市民の関心が高い地域です。

これからの少子高齢化社会において、日本の人たちが地域の中で安心して暮らせる基盤を作ること、さらには創出された基盤を海外の国々でも活かしてもらえるように繋げていければと思います。

阿曽沼:地域環境が違う3地域が共同で、1つの標準的な健康・医療情報の共有基盤を作っていきます。それにより全国展開がしやすくなります。これまでは「あそこの地域環境だからできたけど、うちにはできない」と全国展開に至らないことがほとんどでしたが、今回は環境、行政の仕組み、企業も全く異なる3地域で取り組みます。それにより、他の地域のモデルになりやすいのがメリットです。

02
新しい規格を採用し、健康・医療情報を連携

――​医療情報連携の概要を教えてください

阿曽沼:これまではネットワーク間のデータ連携には大きな課題がありました。HL7/V2.5やMMLなどのデータ交換プロトコルが運用されていましたが、種々の課題もあり、今般、HL7FHIRという新しい規格が採用され、国として医療情報や電子カルテの情報を地域間で共有しようという方針が決まりました。ただ、現実的には健康・医療分野の多様なデータが全て短期間に対応できる訳ではありません。介護情報や各種の健診情報、母子手帳や、在宅で収集されるライフログデータなどです。特区でのご提案では、これら情報を速やかに共有したいというご要請もあり、HL7FHIRを基軸としながら、現に運用されている各種のデータ記述方式間を翻訳・変換するエクスチェンジ機能を試作し、スピード感を持って情報共有基盤構築の仕組み作りを推進していきます。

唐澤:加賀市を含めた3地域では、データ連携により、確かに役立ったということを市民の皆さんに実感してもらうことや、特区以外の地域の方に分かっていただけることを始めることが大事だと思います。1つ始めて、育てていき、拡げていく。加賀市で始めた方法が、例えば日本全体に拡がっていって、ほかの色々な分野にも活用してもらいたい。まずは具体的なものを、実感できるメリットとして示すことを目指しています。

03
医療の質向上に繋がる「医療版」情報銀行

――​「医療版」情報銀行とはどのようなものでしょうか?

唐澤:「医療版」情報銀行の意義は、健康、医療、介護の情報を同意の上で収集し、活かしていくことです。第一にはデータを提供していただいた市民の皆さんの医療や健康や介護に活かしていき、地域も良くしていく、そして行政の政策にも活かしていく。また、企業やNPOなどにも活かしてもらおうと考えています。例えば、新しい医薬品の開発、医療機器の開発にも活かしていけますし、介護システムにも活かしていけると思います。

阿曽沼:政府は、経済財政運営と改革の基本方針や、去年の10月に立ち上げた医療DX推進本部の中で、全国医療情報のプラットフォームを作らなければいけないという意思を、強く打ち出しました。この特区も国の方針と伴走していく形です。

これからの医療では、画一的な医療サービスというより個々人に合ったオーダーメイドなサポート、指導を行うことが大切です。それに必要なのは価値あるデータです。3地域ではその為の実証実験ができるといいと思います。

04
タスクシフト、そして地方創生、ふくらむ将来への期待

――​デジタル田園健康特区の今後の展望を教えてください

阿曽沼:医療機関は国家資格をもった専門職員が集まっている組織です。基本的には持っている資格で自分たちのできる範囲は決まっています。今、国や厚生労働省が医師の働き方改革という非常に大きなテーマの中で、タスクシフト、つまり他の職種の人ができることはやっていく動きがあります。例えば医師でなくてもできることを、看護師や救急救命士にどのようにシフトするか。その仕組みを、実証実験を通して確立していくことになると考えています。

唐澤:加賀市はもちろん、日本に必要なことは地方創生だと思います。それには地域経済の活性化、地域生活の安定化、地域文化の振興が大切です。加賀市でも地域に誇りを持ち、住みたくなる街づくりを進めています。今回の「医療版」情報銀行を活かし、医療、健康、介護の分野で安心できる暮らしを確保していきたい。またデータを活かした新しい産業の創出にも役立てていきたいと考えています。