いま、知っておくべき“知財”をめぐる世界の現状
「標準必須特許をめぐる状況」
KDDI技術開発本部知的財産室・弁理士、
千葉哲也氏
通信オペレーターとして、実施者と特許権者との間の中立的な立場から議論に参加しようとしているKDDIの千葉哲也氏は、個人的な意見としながら、両者の対立解消に向けた方向性を示した。
標準必須特許を巡っては、多数の必須特許をワンストップでライセンス処理できるようにしたパテントプールなど、平和的な取り組みの一方で、高額なライセンス料を課すという、過激な動きも目立っている。
千葉氏は、特に、自ら開発機関を持たず、他社から買い集めた特許を使って特許侵害を主張するPAE(特許主張団体)の登場を問題視した。事業撤退により市場に放出された標準必須特許等を取得し、その特許を使って事業を差し止める可能性を示唆して高額のライセンス料を請求する「パテントホールドアップ問題」が顕在化している。欧米では、濫訴が産業発展を阻害しているとして、政府も対策に乗り出す事態になっている。
千葉氏は、標準必須特許のルール改訂について、事業停止のリスクを負う実施者、開発した技術への正当な対価を求める特許権者、双方の主張に理解を示した上で、「通信オペレーターとしては適正な価格で、顧客に通信サービスを提供できるエコシステムを守りたい。そのためには、通信サービスの顧客の利便性のために標準規格を作り、普及させるというFRAND宣言の目的の原点に立ち戻って考える必要がある」と訴えた。
そのためには、標準必須特許による差止めについては原則的には制限しつつ、FRANDのライセンス条件は、独立した当事者間において、非強圧的に、かつ提示条件を適切に評価するために必要となる十分な情報開示の下で行われる誠実な交渉により決定されるべき――といった内容を盛り込んで互いに妥協の道を探るべき、という考えを示した。