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いま、知っておくべき“知財”をめぐる世界の現状

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「Recent IP Policy discussions at SDOs」
~最近の標準開発組織における知財ポリシーに関する議論~
ノキア・テクノロジーズ アジア太平洋地域パテントライセンス本部本部長、ヤリ・ワーリオ氏

通信技術に関する多くの必須特許を保有するノキアから、標準必須特許のポリシー改訂交渉に加わってきたヤリ・ワーリオ氏は、改訂の動きについて、特許権者側の立場から見解を述べた。

ワーリオ氏は「昔は、技術を開発した会社が、製品を作っていた。しかし、最近はオープン標準によって、誰でも技術を入手できるようになり、技術開発に貢献しないで製造だけする会社が出てきた。一方、技術を開発してきた会社はあまり製品を作らなくなった」と、実施者と特許権者が分かれて、利害関係が複雑化してきたと指摘。「実施者側が、必須特許の技術の対価を払わずに済むように知財ポリシーを変えようとしたことが、今回のルール改訂の始まりだ」と、主張した。

Nokia Technologies アジア太平洋地域 パテントライセンス責任者。各標準化団体でノキア代表を務める

ルール改訂の議論では、アップル社などをはじめとする実施者陣営が必須特許の使用差し止め請求を制限しようとする動きを強めている。特にIEEE(米国電気電子学会)は、今年2月、定められた除外要件に該当する場合を除いて、原則として特許権者は実施者に対して、必須特許の使用差し止め請求はできない、とする知財ポリシー改訂に合意した。

ワーリオ氏によると、IEEEは審議過程で、特許権者側のメンバーを除外したクローズドなグループで議論を行い、ノキアなどからの反対提案は理由も示さずに却下した、という。これに対し、ノキアは、ある特定のコーデック技術を必須特許に含めることを拒絶するなど、標準に対する技術貢献を再考する動きを見せている。

同氏は「今回の知財ポリシー改訂の動きは、技術を支えてきた企業の開発動機を失わせ、標準に対する貢献縮小につながりかねない。今後の標準化の行方を大きく変えてしまう可能性があるので、慎重に考えて欲しい」と訴えた。

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