脱炭素化が進む過程で発生した化石燃料の争奪戦。世界のエネルギー情勢に詳しい元住友商事執行役員の高井裕之氏は、「危機は始まったばかり」と指摘する。
いま世界が直面しているのは、「2050年カーボンニュートラル」達成という長期目標と、「世界同時多発エネルギー危機」の短期課題が並立するジレンマだ。これを解消するための特効薬がないというのが現実だろう。
今回のエネルギー危機は石油ではなく、電力に直結した天然ガスであることが最大のポイントだ。原油価格もじりじりと上がってきているが、在庫水準はそれほど低くなくまだ危機には至っていない。欧州の天然ガス価格は9〜10月に一時、年初から5倍超と過去に例のない水準で急騰した。
なぜ天然ガスの需給ばかりが逼迫したかというと、欧州の風況が悪かったのが発端だ。とくにアイルランドの洋上風力発電が安定せず、そこから送られる英国の電力が不足してしまった。代替電源として火力発電を使おうにも、欧州は天然ガスの43%を依存するロシアからの供給制約を受けているうえ、最後の手段であるLNG(液化天然ガス)のスポット調達も中国やブラジルの需要拡大と重なってしまった。
今回の危機は悪いことがすべて同時に起きたパーフェクトストームによるもので、「犯人探しをするべきではない」という意見もある。ただ、そもそも風が吹けば問題はなかった。英国をはじめ欧州はこの10年間相当な勢いで風力や太陽光発電を推進してきたが、それがあだになってしまった。
再生可能エネルギーには、気象条件に出力が左右される間欠性の課題がある。(現在の技術では)再エネは送電網に対して不安定な電源で、それを補完するためにバックアップ電源を持つ必要がある。脱炭素の潮流で石炭火力が退出していることもあり、ブリッジフューエル(移行期の燃料)としての天然ガスの重要性は高まる一方だ。
すでに欧州の天然ガスの在庫はかなりの危険水域に入っている。これでもしこの冬に寒波到来となると、またぞろエネルギー危機が来る可能性が高い。
今後の最大の懸念は、欧米の石油・ガスメジャーが、化石燃料への投資からの脱却を進めていることだ。資源投資というものは30年先の需要を読んだうえで行われる。
供給はさらに絞られる
脱炭素の潮流が続けば、供給は必然的に絞られる。寒波や熱波などの異常気象をはじめ、予期せぬ需給バランス崩壊が起きたときに、ものすごくエネルギー価格が跳ね上がる。こうした状況が脱炭素時代の新常態となるだろう。
では、最終的に誰がエネルギー資源の安定供給を担うのか。OPECやロシアは喜んでその役を買うだろう。だが、それは地政学的なリスクをはらむことになる。原子力と再エネのエネルギーミックスという考え方も外せないが、これは脱炭素や化石燃料とは別の議論になる。
カーボンニュートラルの方向性は今後も不変で、緩和されることはまずないだろう。となると、いま起きているエネルギー需給の逼迫は、ますますひどくなる可能性をはらんでいる。元米政府のエネルギー専門家は、「いま起きていることは序の口で、10年後にもっとたいへんなことになる」と予言している。
(構成 秦 卓弥)






















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