支持者による暴力を陰に陽にあおってきたのがトランプ大統領だ。バージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義者が反対派のデモ隊に車で突っ込み死傷者を出す事件が2017年にあった。このときトランプ氏が「とても立派な人たち」が双方にいたと述べたのは有名だ。同氏はその後も非白人の女性議員などをネタに差別的な発言を繰り返している。
トランプ氏の言葉には現実を動かす力がある。その証拠にシャーロッツビル事件の犯人だけでなく、何人もの白人至上主義者がトランプ氏に刺激されて暴力やテロに走ったと告白している。最近の学術研究によれば、トランプ氏の反イスラム的なツイートとイスラム教徒を狙ったヘイトクライムとの間には直接の因果関係が存在する。
このように憎悪をたきつけ、事実をねじ曲げる性癖からして、トランプ氏をファシストと結論づける向きも少なくない。トランプ氏は自らの権勢を拡大し、一族のいかがわしいビジネスを守るために、民主的な制度をないがしろにしてきた。そのやり口は確かにムッソリーニやヒトラーのそれと重なる。
だがトランプ氏をファシストと呼ぶのは行き過ぎだ。第1に、戦間期のファシズムは共産主義の脅威と表裏一体だった。当時のドイツやイタリアの中産階級は、労働者階級が蜂起し共産革命を起こすのではないかと本気で恐れていた。現代にこうした脅威は存在しない。
第2に、当時は第1次世界大戦の影を引きずった若者が人口のかなりの割合を占めた。米国の退役軍人にもイラクやアフガニスタンの戦争がトラウマとなった人は少なくないが、その政治的影響力は戦間期と比べれば物の数ではない。
第3に、トランプ氏は過激な言説を吐いたり、大統領再選に協力するよう外国に圧力をかけたりしてはいるが、現時点ではまだ選挙制度に従っている。確かに11月の選挙で負ければ「こんな選挙はいかさまだ」と騒ぎ出す展開もありうるが、仮にそうなったとしても、制度的に民意を抑圧してきたファシズムとはなお雲泥の差がある。
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