連休中に『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)を読んだ。「トランプ現象」を生んだ米国政治とメディアの最新情勢について、日本のジャーナリストたちが切り込んでいる。
トランプ氏は集会において、その場にいるメディアを「最も不誠実な人たち」と呼ぶ。支持者たちはそれに歓呼で応える。もちろんメディアはこれを批判する。ときには「こんなばかを支持しているなんて信じられるか」と、上から目線で報道することもある。
ところがトランプ氏は、オンレコの取材には頻繁に応じるし、メディアの関心をつねにつなぎ留めようともしている。そのくせ何か都合の悪いことを書かれると、「フェイクニュースだ!」とブチ切れる。実はメディアにたたかれることが、自らの支持層を固める近道だと割り切っているのだろう。
メディアもこの状況から利益を得ている。トランプ氏が大統領になり、ニューヨーク・タイムズ電子版の購読者は100万人以上増えた。広告費の減少に見舞われるメディアにとっては神風だろう。トランプとメディアは、「ウィン-ウィン」の関係にある。
かつて牧歌的な時代には、人々は朝に新聞を読み、夕方にテレビでニュースを見る程度であった。報道に接する時間は短く、電波に対する「公平性の原則」という規制もあった。それが今ではニュースは24時間配信され、ネットを規制するすべもない。
さらにSNS(交流サイト)時代となると、人々はフィルターがかかった情報のみを受け取るようになる。それぞれが「仮想現実」の中にいるような状態なので、好みでない情報は最初から却下される。かくして政治と社会の分断は歯止めがかからない。
日本も例外ではない
日本はまだそこまで行っていなくてよかったね、と言いたいところだが、本当にそうだろうか。
先般、東京・池袋で起きた交通事故による母子死亡事件の際、車を暴走させた高齢者が逮捕されなかったことに対し、ネット上で「上級国民だから」という言説が流れた。実際には、官僚OBだからといって警察が事故を「忖度(そんたく)」することはありえない。しかしネットは炎上し、「犯人の実名を報道しないメディアはけしからん」という。「下から目線」ともいうべきルサンチマンである。
メディアの発信する情報が信用されず、ネット上で「陰謀論」が駆け巡る時代は、日本でももうそこまで来ているのではないか。右と左の対立よりも、怖いのは社会の上と下の分断だ。殷鑑(いんかん)遠からず、日本はまだトランプ氏のような「ポピュリスト」が登場していない、というだけのことなのかもしれない。
(シメオン)



















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