日本人にとってはありふれたものでも、外国人にとっては特別に感じられる景色がある。
山梨県富士吉田市に「下吉田」という駅がある。富士急行大月線の駅だ。電車は1時間に1~2本普通列車が停車するだけ。住民の高齢化などの理由で駅前商店街は事実上「シャッター通り」と化しており、かつては地方によくあるひなびた駅の一つだった。そんな下吉田に今、タイ人観光客が押し寄せているのだ。
彼らの目当ては、駅から徒歩20分ほどの所にある新倉山浅間公園。新倉山は地元ではアヤメの群生地として知られていた。ただ、タイ人はアヤメを見るために訪れているわけではない。彼らが下吉田に押し寄せるきっかけとなったのは、ある旅行中のカップルのSNS投稿写真だった。
新倉山浅間公園に入園すると、約400段の階段が待ち構える。そこを辛抱強く上り詰めると目に入るのが、朱色に塗られた20メートルほどの高さの五重塔「忠霊塔」だ。さらにその背景に広がるのが、雄大な富士山の景色なのである。
忠霊塔は五重塔といっても、1962年に造られた鉄筋コンクリート造の建物。太平洋戦争の戦没者の慰霊を目的に建築されたものだが、重要文化財のような特別な歴史的価値がある建築物ではない。日本人にとっては全国各地で見られる、よくある景色の一つにすぎないといえよう。
そんな五重塔もバックの富士山と合わせて見ると、外国人にとっては特別な景色となるようだ。
あるとき、タイ人カップルが日本国内を旅行し、偶然にも下吉田を訪れた。そこで目にしたのが同公園内の五重塔と桜、背景に広がる富士山の景色だった。同公園は桜の名所でもあり、春はお花見スポットとしても知られていた。その景色をバックにしたカップルの写真をSNSに投稿したところ、タイ人の間で大評判となり、次々と拡散されていったのだ。彼らは「これこそがニッポンだ!」とつぶやき、いつの間にかタイ人の間で「日本を旅行するなら下吉田を目指せ」が合言葉となったのである。
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