「壮観」とは、こういうときに使うべきなのだろう。
気動車が終点のメークロン駅に近づき、汽笛を鳴らしつつ徐行を始めた。先頭車両前方の窓からは、線路の左右両側ぎりぎりまで広がる市場とそのすき間に、ラッシュ時の通勤列車待ちのようにびっしりと立ち並んでいる観光客の姿が飛び込んできた。そのすべてがスマートフォンやカメラをこちらに向けている。
観光客の多くはタイ人や中国人。中でも若者、とりわけ女性が目立つ。列車の速度が人の歩く程度であるのをいいことに、ぎりぎりまで線路の中央に立って撮影を続ける猛者もいる。日本では、線路内に立ち入り、踏切内で撮影しただけで大問題になるのだが……。
線路の上で商売
バンコク西郊の低地で東西に延びるメークロン線は1907年に開業した。単線非電化のローカル線で、3両編成の日本製気動車が1日4往復運行する。この1編成が約34キロメートルを行き来するだけなので、信号すら存在しない。
西端の終点であるメークロンの町はメークロン川に面しており、交通の要衝として古くから栄えてきた。この川の上流はクワイ川と呼ばれ、映画『戦場にかける橋』の舞台として知られている。
一部の鉄道マニア以外にはほとんど知られていなかったこの鉄道が脚光を浴びるようになったのは、メークロン駅近くの線路沿いにある「鉄道市場」のためだった。
列車の本数が少ないため、線路上で露天商が商いをして列車が来るときだけ撤収する。この光景は2010年ごろから急激にインターネット上で広がっていった。
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