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ライフ #生涯現役の人生学

上司がくれた印鑑 何が起こっても不思議ではない

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「あなたの座右の銘は?」と問われて、「『いろいろあらーな』です」と答えた女性評論家がいる。思わず吹き出したが、この返答は忘れられない。いつも頭の一隅に根雪のようにこびりついている。

私も似たような一語を頭の中に据えているからだ。「何が起こるかわからない。何が起こっても不思議ではない」。が、この頃はこっちの受信機が消耗したのか、部品の一部がすり減ったのか、いろいろ起こっている事象の受け止め方が雑になってきた。仕事場移転を思い立ったのもそのためだ。世間の変化の徴候を知るにはまず緊張感だ。それが衰えた。惰性だ。慣れだ。この慣れに慣れたのだ。危険だ。だから転居を考えた。

転居時には忘れずに持っていく物がある。勤めていた頃の尊敬する上司が、私のために彫ってくれた印鑑だ。実印として登録すれば、保管の気構えがしゃっきりするのだろうが、そういう実務に使うのは彫ってくれた上司の意図にたがうだろうし、私自身の心にもどこかスッキリしないものが残る。

「おい、この判の使い方はな」とその上司は判の押し方を教えてくれた。「たとえば企画書の決裁で、快哉を叫びたくなるような良案に対しては、定位置にきちんと押す。案の一部に再考を促すところがあるものは斜めに押す。案にかなり問題があるが、今の立場上どうしてもやらざるをえない案については逆さに押す」。上司は自分でもそのとおり実行していた。

私の知るかぎり、定位置にキチンと判が押された起案書はほとんどない。斜めのものが多かった。これは「もう一度よく考えて書き直してこい」という意味だ。逆さまに押したのは、「この職場にいてこういう案を実行するのが、組織としてはたして問題がないのかどうか考えろ。場合によってはトップが責任を問われるぞ」という強い叱責の意味が含まれている。

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