あのときという特定の時機はないが「やっておけばよかった」という後悔が二つある。もう死ぬまで絶対にできないからだ。
やりたかったことというのは、ハンググライダーと、飛行機からのパラシュート降下である。
ハンググライダーはやる場所まで決めていた。佐賀県唐津市の鏡山と静岡県の朝霧高原だ。別の用で脇を通過するたびに「近く必ずハンググライダーをやりに来るぞ」と宣言した。が、ついに宣言倒れになり、規定のうえでも年齢のうえでももはや無理ということになり、今生では断念せざるをえなくなった。選んだ唐津も朝霧高原も、上空からぜひ眺めたい景勝地だった。
その代わりというのもおかしいが、今テレビで火野正平さんの自転車旅行を食い入るように見ている。関心は二つあって、一つはかなり日本各地を歩いたつもりの私でも、初めて知る土地の景観に接することが多いこと。「にっぽん縦断 こころ旅」というタイトルどおり、投書者が大切にしている風景の指定が、私にはほとんど未知の地域であること。
もう一つは、もはや私自身は自転車に乗らない(乗れない)こと。どう力もうが、意識はあっても手足のほうが司令塔の指揮どおりには動かず、たちまち転倒することは明らかだ。(自転車にも乗れなくなったか)などという嘆きは、私の場合にはなかった。ごく自然にこの喪失を受け止めた。「老いとはそういうものだ」とずいぶん前から覚悟していた。
この番組は楽しい。私は火野さんと一緒に自転車に乗っているような気分になる。火野さんのハンドルさばきやペダルを踏む脚力は、まだまだ力強い。それに便乗する私の心は、完全に火野さんに同化させてもらっている。
次々と失うものの増える日々だが、“新しく得るもの”がまったくないわけではない。
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