10月に入ってから米国経済の変調が取りざたされるようになった。ISM景気指数に代表されるソフトデータは製造業・非製造業ともに弱含みが見られ始め、ハードデータの筆頭格である雇用統計や小売売上高なども市場予想を割り込む動きが続いている。
FRB(米国連邦準備制度理事会)が正常化へ向けた対話に時間をかけすぎたことによってドル相場がたっぷりと利上げ期待を吸収し、ドルが高くなったことで、企業部門から足元が崩れ始めた。今の米国経済は、文字どおり自縄自縛に陥っているように見受けられる。
特に最近の雇用統計を見ていると「FRBは利上げの好機を逸したのではないか」との思いはどうしても強まる。雇用の基調を示すものとして非農業部門雇用者数変化の6カ月平均に注目すると、2014年3月~今年7月の17カ月間では前月比プラス20万人の増勢が維持されていたが、直近2カ月(8月、9月)はこれを割り込んでいる。過去を振り返ってみても、6カ月平均の20万人超えはそうそう続くものではない。
現状、イエレンFRB議長は利上げの条件として「雇用市場におけるさらなる改善」に言及しているが、雇用回復を所与として利上げを検討できる恵まれた状況がいつまでも続くわけではない。
たとえば、現在(15年10月)は07年12月の「景気の山」から94カ月目に突入するが、過去を振り返れば、90カ月以上を経た局面で景気拡大が一服し、再び雇用が減少し始めることもあった。なお、NBER(全米経済研究所)によれば、1970年以降の米経済の拡大局面は平均66.5カ月だったが、現在は09年7月から数えて76カ月目に突入している(図1)。
拡大する
長いからダメだというつもりはないが、経験則に照らせば米国経済の循環的な拡大局面は終盤戦に差しかかっている疑いはある。FRBが正常化へ向けた助走期間を引っ張りすぎたことで通貨高が製造業を中心に金融引き締め効果をもたらし始めてしまった。利上げを待つ間に、雇用市場の回復ペースのほうが鈍ってくる展開は十分考えられる。
足元、中国経済の減速により、商品価格が浮上のきっかけをつかめず、雇用回復のペースも成熟してくるとすれば、デュアルマンデート(雇用最大化と物価安定)に照らして、もはや利上げの大義は雲散霧消してしまう。今後のドル円相場見通しを検討するに当たっては「もはや利上げなし」のシナリオを市場がいつ織り込むのかという論点も勘案すべきかもしれない。
筆者は年内に関しては「正常化の虜(とりこ)」になったFRBが利上げを示唆し続ける中で、日米間の金融政策格差を理由に円安ドル高が進むものと考えてきた。そして、年明け後は、拙速な利上げが米国経済の重しとなり、結局はFRBが正常化をあきらめ、16年は5年ぶりに円高ドル安に反転するという展開をメインシナリオとして描いてきた。
目先は円安が続くが
しかし現状を踏まえるかぎり、リスクシナリオとして、FRBが年内利上げを見送ったうえで、それでも「正常化の挫折」を認めず、未練がましく正常化に固執し続けることで、皮肉にも円安シナリオが延命するという展開もありうる。金利先高観があるかぎり、日本から海外への対外証券投資は堅調さが維持され、それが貿易赤字とともに円売り需給を支えると思われるからだ。
要するに、「正常化の挫折」ならば円高だが、「正常化への固執」ならば円安は続きうるという考え方である。だが、仮にそのような延命シナリオが実現したとしても、それは市場が「もはや利上げなし」と気づくまでのつかの間の動きかと思われる。





















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