幕府消滅を遂げたのに「西郷と大久保」襲った誤算 徳川慶喜の立ち回りのうまさで同情論が噴出

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実は徳川慶喜に振り回されていた大久保利通(左)と西郷隆盛(右)(左写真:iLand/PIXTA、右写真:K,Kara/PIXTA)
倒幕を果たして明治新政府の成立に大きく貢献した、大久保利通。新政府では中心人物として一大改革に尽力し、日本近代化の礎を築いた。
しかし、その実績とは裏腹に、大久保はすこぶる不人気な人物でもある。「他人を支配する独裁者」「冷酷なリアリスト」「融通の利かない権力者」……。こんなイメージすら持たれているようだ。薩摩藩で幼少期をともにした同志の西郷隆盛が、死後も国民から英雄として慕われ続けたのとは対照的である。
大久保利通は、はたしてどんな人物だったのか。その実像を探る連載(毎週日曜日に配信予定)第22回は王政復古の大号令の後、大久保と西郷を襲った思わぬ事態についてお届けする。
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<第21回までのあらすじ>
薩摩藩の郷中教育によって政治家として活躍する素地を形作った大久保利通。21歳のときに父が島流しになり、貧苦にあえいだが、処分が解かれると、急逝した薩摩藩主・島津斉彬の弟、久光に取り入り、島流しにあっていた西郷隆盛が戻ってこられるように説得、実現させた。
ところが、戻ってきた西郷は久光の上洛計画に反対。勝手な行動をとり、再び島流しとなる。一方、久光は朝廷の信用を得ることに成功。大久保は朝廷と手を組んで江戸幕府に改革を迫るため、朝廷側のキーマンである岩倉具視に「勅使派遣」を提案。それが受け入れられ、勅使には豪胆な公卿として知られる大原重徳が選ばれた。
得意満面な大久保を「生麦事件」という不測の事態が襲うが、実務能力の高さをいかんなく発揮し、その後の薩英戦争でも意外な健闘を見せ、引き分けに持ち込んだ。
勢いに乗る薩摩藩。だが、その前に立ちはだかった徳川慶喜の態度をきっかけに、大久保は倒幕の決意を固めていく。閉塞した状況を打破するために尽力したのが、2度目の島流しにあっていた西郷の復帰だった。復帰後、西郷は勝海舟と出会い、それまでの長州藩討伐の考えを一変。坂本龍馬との出会いを経て、薩長同盟を結び、大久保と西郷は倒幕への動きを加速させる。
武力による倒幕の準備を着々と進める大久保と西郷。ところが慶喜が打った起死回生の一策「大政奉還」に困惑してしまう。

新政権を樹立するも慶喜に黙殺される

なぜ、慶喜はこれほどのことをされているのに、抵抗しないのか。大久保利通のいらだちは、極限に達していたであろう。

王政復古のクーデターは成功し、新政府の樹立がついに成し遂げられた。大久保、西郷隆盛、岩倉具視ら倒幕派は重要なポジションに就き、新しい政治体制のなかで主導権を握る。その結果、紆余曲折はしたが、慶喜は官位も広大な領地も失うことが決定。いきなりの大政奉還で朝廷にうまく責任を押し付けた慶喜を、今度こそ追い詰めたはずだった。

だが、厳しい処分を伝えられても、慶喜は動揺を見せることなく、あっさりと二条城から立ち去る。そして2万3000人あまりの幕府軍を引き連れて、大阪城へ引っ込んでしまった。

一見すると、京都から追い出されたように見える。だが、大阪は経済と軍事の両方からみても重要な拠点だ。慶喜はまるで「明治新政府のお手並み拝見」とでもいわんばかりに、大阪から京の政情を見守ることとなった。

新政府は固有の財産を持たない。だからこそ徳川家の領地を手に入れなければならなかったが、慶喜は無反応に近い。領地を返上するともしないとも言わず、態度を保留させたまま、大阪で欧米各国の代表と会見。京都の新政府のことなど眼中にないかのように、国の代表者としてふるまった。

これには、さすがの大久保もかつてないほどの危機感を募らせた。

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