性感染症「梅毒」がコロナ禍の日本で広がるなぜ 約1.4倍増の実態から見えてくること
「日本ではだいたいこの第2期の段階で治療が行われるため、第3期梅毒、第4期梅毒まで進行した患者さんを診ることはほとんどありません。ですが、この段階になると大動脈に炎症が起こったり、神経梅毒といって神経がマヒしたり、肉芽腫(毛細血管が異常な増殖をすることで皮膚が盛り上がった状態)が起こったりして、場合によっては死に至ることもあります」(北村さん)
このほか、妊婦が梅毒に感染していると流産や死産、新生児死亡、奇形などの問題が起こることがある。したがって、妊婦健診では梅毒の検査も行って、感染が確認されたら後述するペニシリンGの筋注で治療を行うこととなっている。
いずれにせよ、このように梅毒の病原菌は症状が出たり、消えたりを繰り返しながら全身に広がっていく。症状がなくなったからといって菌がいなくなったわけではなく、性行為を介して人に移す可能性が高い。また感染症のなかには一度感染すると抗体ができて、次回から感染しにくくなるタイプもある。梅毒も感染によって抗体ができるものの、再感染を防ぐことはできないようだ。
「大事なのは、性行為をする際は必ずコンドームを使うこと。これは梅毒だけでなく、ほかの性感染症の予防にもなります。梅毒の場合は、性行為の多様化が背景にあるので、コンドームだけで100%の予防はできませんが、それでも予防に役立ちます」(北村さん)
1回の筋肉注射という治療法も
北村さんはこう訴える。
「今は昔と違って、梅毒にかかって亡くなることはほとんどありません。しかし、感染していたら性行為によって大切なパートナーに病気をうつしてしまう。できれば、新しいパートナーができたとき、パートナー以外の人と性行為をしてしまったとき、こういうときは一度、検査を受けてほしい。検査はどこの医療機関でも受けられますし、保健所でも無料で受けることができます」
万が一、梅毒にかかっていることがわかっても、今は薬で完治することができる。しかも2021年9月には、治療薬ペニシリンG「持続性ペニシリン製剤(商品名ステルイズ)」の筋肉注射が、日本でも承認された。ペニシリンGはアメリカCDC(疾病予防管理センター)で推奨されている世界標準の治療法だ。
これまで日本で行われていた治療は、アモキシシリン(サワシリンなど)という薬を1日3回、2~4週間(病期によっては、それ以上)服用する方法が一般的だった。それが、たった1回の筋肉注射(病期によっては3回)で済むようになる。
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