【協力】東洋経済新報社

開会あいさつ
木村 浩一郎 氏
開会あいさつに立った、あらた監査法人の木村浩一郎代表執行役は「日本経済もアベノミクスの効果で元気が出てきた」と切り出した。「世界のCEOも成長に向けた自信を深めていることが、意識調査から読み取れるようになった」と指摘した木村氏は「グローバルトレンドのリスクとオポチュニティについて検討し、日本の企業がどこに向かうべきか、を皆さんと考えたい」と、フォーラムの狙いについて語った。
スペシャルセッション
世界の10大リスクと「Gゼロ」後の世界
イアン・ブレマー 氏
グローバルな政治リスク分析をリードするコンサルティング会社、ユーラシア・グループ社長。政治学博士。2011年に「Gゼロ」をトップリスクとして発表。リーダーなき世界のコンセプトは大きな注目を集め、同年のダボス会議のキーワードになった。世界各国の政府首脳とも頻繁に意見交換している。著書に『自由市場の終焉―国家資本主義とどう闘うか』、『Gゼロ後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか』など。
オバマ大統領訪日最終日に当たったこの日、政治学者のイアン・ブレマー氏は、日米関係について「日本との関係は良好だが、オバマ政権は明らかに中国との関係をより重要と考えている」と話し始めた。その中で、日本は、景気を改善するアベノミクスの改革と、日本の競争力を強化しつつ、中国に改革を迫る圧力ともなるTPPを進めるべき、と語った。
本題の、日本に影響する地政学的メガトレンドについてブレマー氏は、①米外交の凋落、②中国の改革の行方、③ロシア問題、④イランの核交渉、の4点を挙げた。米国は圧倒的な軍事力を世界に展開しているが、「力の行使は望まず、他国への影響力も薄れている。ただ、Gゼロは米国にとっては悪くはない」と語り、米外交の凋落傾向は続くとした。
中国については「習近平という強力なリーダーがエネルギー、政治腐敗、金融、国有企業などを改革していることは喜ばしい」と評価。米国は改革の成功を望むが、成否は予想できないという。改革成功は、日本も含めた外資企業の投資環境を改善するが、失敗すれば、安全保障などの面で日本にも深刻な問題をもたらす、と懸念した。ロシアの問題については「ウクライナはロシアから自立できないし、ロシアが手を引くこともない」と断言。ロシアの孤立化を図る米国の政策は、ロシアのエネルギーが不可欠な欧州、武器輸入する中印の存在で失敗すると予測した。一方で、イランの核問題をめぐる交渉の行方については楽観的で、イランの石油輸出再開、石油価格下落などの朗報が届く、と見通した。
今年、大きな選挙が相次ぐ新興国市場については「政府の機能が不十分で、与党が勝利しても経済改革は進まない」とやや悲観的で、経済が沈下するロシアなどを新興国と呼べるかどうか、鑑別すべきと指摘。日本は、もっとアフリカに目を向けることを推奨した。
最後の質疑は、中国や韓国と日本の関係に集中。ブレマー氏は「国によって歴史に対する視点は異なる。靖国問題など、歴史を持ち出せば不要な対立が生じるので、歴史から離れた方がいい」と語った。
キーノートセッション
Fit for the Future 世界的な潮流をつかむ
~日本と世界のCEO意識調査から
見えるメガトレンドへの対応比較~
椎名 茂 氏
プライスウォーターハウスクーパース社長の椎名茂氏は、PwCが世界68カ国1344人を対象に行った世界CEO意識調査の結果を解説した。同調査は毎年実施され、今回(2013年第4四半期実施)が17回目。日本企業からは約1割、127人が回答した。その中で「今後12カ月に成長の自信がある」と答えた日本のCEOは84%で前年比11ポイント増の大幅回復で、世界全体の85%に並んだ。椎名氏は「ようやく環境が整い、攻めの戦略を打つ時期を迎えた」と語った。
成長モードに入った日本企業の今後の成長要因では「新たな地域の市場開拓」への注目度が24%と、世界全体の14%より目立って高いという特徴が見られた。日本企業が成長する上で重要とする国・地域は、上位10カ国のうち7カ国をアジアが占め、M&A、合弁、戦略的提携を計画している地域も東南アジアが38%、東アジアが32%で突出した。アジア・太平洋地域では今後、中流層の急増が見込まれ、椎名氏も「購買層が集中するアジアに賭けるのは正しい戦略」と述べた。
一方で、規制、為替、労働コスト増などの「リスクを見越した備えも重要」と注意を促した。また、M&Aを計画する日本のCEOは15%にとどまり、米国の39%より大幅に少なかった。椎名氏は「日本企業は緩やかな提携を好み、M&Aには消極的。スピードのある経営のために時間を買うことも大事」と指摘した。
今井 俊哉 氏
市場と共に重要な「製品・サービスの革新」について、「技術進歩」を、ビジネスに革命的影響を与える要因に挙げた世界のCEOは81%だったのに対し、日本のCEOは65%で、技術投資や人材戦略への回答の割合は低かった。椎名氏は「日本企業は、問題は技術以外の市場や売り方にあると認識しているようですが、本当でしょうか」と技術投資への関心の低さに懸念を表明。人材戦略についても、日本の労働人口減少を踏まえ、「刻々と変化する環境に対応できるレジリエントな組織の整備」が必要という考えを示した。
最後に、今年4月にPwCに加わったプライスウォーターハウスクーパース・ストラテジー株式会社の今井俊哉氏を紹介。今井氏は「戦略的コンサルに加え、実践的コンサルによって新たな強みを発揮することで、日本企業の成長と改革をお手伝いしたい」とあいさつした。

グローバル メガトレンド セッション
(A-1)日本企業の海外進出
A to Zを見直す
坂野 俊哉 氏
プライスウォーターハウスクーパースの坂野俊哉氏は、海外戦略の策定に必要なアプローチとして「マーケットアプローチ」、「コンピテンシーアプローチ」、「戦略的意思アプローチ」の三つを挙げ、切り口を特定した資源配分が必要と説く。インド進出の事例では、債権不払いや現地ジョイントベンチャーのパートナー先との紛争や組合問題、ストライキなどのトラブルはインドでは当たり前のことで、トラブルが起きてから対応するのが通例。そこで海外戦略で重要となるのが、「現象→暗黙知→形式知」という思考プロセスであり、多国展開する場合は、グローバルレベルとローカルレベルの2層での戦略の見える化が不可欠と指摘した。
これらを踏まえた上で、日本企業が海外展開にチャレンジしていくには、「抽象化されたコンセプトや概念を、文化を超えて伝えていくコミュニケーション力こそ重要である」と話す。今後の海外戦略のA to Zについては、「ルールが異なるさまざまな国で事業運営の仕組みをどう作るかという次元でのロジックが要となる」ことを強調した。
(A-2)グローバル企業の新世界
~M&Aにおける日本企業の挑戦~
吉田 あかね 氏
M&Aのクロスボーダー案件を多く手掛ける吉田あかね氏は、「グローバル企業のCEOは技術進歩や人口構造の変化、世界的な経済力のシフトなどのトレンドに対応するために、M&Aは有力な選択肢として認識しており、78%のCEOがM&Aや合弁・共同出資事業あるいは戦略的提携について変革していく必要性を感じている」と分析する。一方、「M&A案件の75%は失敗」に終わっており、日本においても巨額の減損を計上している現実がある。しかし吉田氏は、日本企業はM&Aを通じ、グローバル企業への変革途上にあるとし、買収案件もここ数年増加傾向にあると話す。クロスボーダーM&Aの成功術として「買った果実を腐らせないためには、違いを原動力に自己変革につなげていくことが大事」と断言。
さらに「守・破・離」をキーワードに挙げ、「『守』=成長を長期的な視点で考え、戦略策定によるM&Aが肝であり、『破』=パートナー戦略には、互いの強みの理解と勝つためのシナリオ策定が不可欠。『離』=買収先を熟知し、新たなマーケットへの飛躍につなげることこそが、真のグローバル企業が目指す新世界である」と締めくくった。
(A-3)インフラ輸出から
都市ソリューションの輸出へ
野田 由美子 氏
グローバルメガトレンドの一つ“都市化”について野田由美子氏は、2050年には世界人口の75%が都市に居住すると予測される中、新興国が抱える深刻な都市課題の解決という視座に立ってインフラ輸出を推進することが有効と主張した。また、「選ばれる都市」を目指して切磋琢磨する世界の都市間競争の現状を紹介し、シンガポールや仁川など先進事例や、東京の都市力についても説明した。
シンガポールは、「ビジネスのしやすさで圧倒的競争力を誇り、過去50年で住みやすい都市を創りあげた歴史と、水処理技術や交通管理システム、公共住宅・廃棄物処理・ガバナンスの仕組みなどを都市のノウハウとして輸出している」と述べ、日本が有する急速な都市化の経験や公害の克服、防災といった経験をノウハウ化し、世界に発信すべきとした。これにより民間企業の都市インフラ輸出を支援すると共に、世界のベストプラクティスを日本に持ち込み日本の都市の競争力強化に生かすといった、アウトバウンドとインバウンドの政策を両輪で回すことが重要と訴えた。
そのために、日本の多様な都市モデルをショーケース化し、都市のナリッジハブとなる都市ソリューションセンターを創設することを提唱した。
(B-1)サイバーセキュリティの
脅威と対応
松崎 真樹 氏
プライスウォーターハウスクーパースの松崎真樹氏は、PwCが世界で実施した「グローバル情報セキュリティ調査2014」の結果を基に、サイバーセキュリティのトレンドを説明した。
セキュリティ向上のために考えるテーマとして松崎氏は「情報を共有するバリューチェーンは1カ所破られると全体に波及する」と、ビジネスエコシステム全体のセキュリティ見直しを提案して、優先順位を付けた対応を求めた。最近のITソリューションの活用や事後体制作り―具体的には、セキュリティを統合的に扱うSIEM(セキュリティ情報及びイベント管理)技術や、CSIRT(事故発生後の対応組織)整備―が重要と指摘。日本企業については「投資効果を評価していない企業も多く、セキュリティ投資のバランスが良くない」と述べ、自社と他社、自社内の各組織でのセキュリティ状況の比較を含めた、見える化を進めるように訴えた。
(B-2)持続的な企業価値創造に貢献する
ディフェンスラインの活用方法
~グローバル・リスクマネーを
呼び込む統合報告への挑戦~
久禮(くれ) 由敬 氏
あらた監査法人の久禮由敬氏は、監査のためにさまざまなチェックシートが送られてくる現場の気持ちに言及して「現場のやらされ感が強くなってはかえってガバナンス効果が下がる懸念がある」と指摘。内部監査態勢の構築の仕方として、現場の業務執行部門、機能別の本社管理部門、内部監査部門、という三つのディフェンスラインを中心に、監査役や外部監査を加えて、フォーメーションのバランスをとりながら連携する、という考え方を紹介した。
さらに、そうしたリスク管理の力を企業価値評価に昇華させる手段を検討。財務情報だけでは説明できない企業価値を伝えるツールとして注目が高まる「統合報告」活用の可能性を示した。久禮氏は「時とともにリスクは変わり、対応するディフェンスラインも見直されるので、統合報告を通じた社内外のステークホルダーとの対話を長い目で継続することが大事です」と語った。
(B-3)グローバル競争下における
経営課題としての税とは?
宮川 和也 氏
税理士法人プライスウォーターハウスクーパースの宮川和也氏は「税は経営課題と密接に関係する」と強調。海外M&Aに伴う想定外の税負担発生などのリスクを示し、専門家への事前相談の重要性を訴えた。
日本では法人税率引き下げが議論されているが、日本企業の実効税率の高さは税の適切な管理に熱心でないことも一因という。一方、税はコストと考えて節税に積極的な欧米多国籍企業の中には、無形資産の税優遇国移転など、過剰な対策が世論の批判を浴び、CEOらが直接対応を迫られる経営問題に発展した例もある。宮川氏は「税にはコストとリスクの二面性がある。コストとして適切に管理することは国際競争力維持に必須だが、行き過ぎれば、違法な脱税でなくてもレピュテーション・リスクにつながる。税はバランス良く管理することが重要で、その取り組みを、すべてのステークホルダーに説明できるように準備しておくべき」と話した。