そして、再開を急いだもう1つの大きな理由が、トランプ政権に対する配慮だ。トヨタ系自動車部品メーカーの社長はこんな見方を口にした。「早期に再開したいのは当然のことだが、あえて先陣を切ったのは、トランプ大統領に協力的なメッセージを送ることが一番の目的だったのではないか」。
トランプ大統領にとって、新型コロナ感染拡大による景気悪化は頭の痛い問題だ。11月の次期大統領選挙で再選を狙う同氏としては、早期に経済活動を再開させ、国民に景気回復への道筋を示したい。
自動車産業の操業再開はその象徴にもなるが、ビッグスリーの場合、従業員が加盟する全米自動車労組(UAW)が感染リスクを理由に慎重な姿勢を見せており、工場の操業再開は早くても5月18日以降になる。
そうした中で、トヨタの操業再開は現地でも大きく報じられ、現政権にとって数少ない明るいニュースとなった。現地でもトヨタの存在感は大きく、同社が再開に踏み切れば、アメリカの製造業の象徴でもある自動車産業の回復ムードが出てくる。
「トランプ大統領は自動車の生産を早期に再開させたがっている。他社もすぐに追随してくるはず」。実際、トヨタ幹部はこう話し、政権への配慮をにじませた。
かつて「口撃」を受けたトヨタ
2017年1月に「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」のトランプ氏が大統領に就任して以降、トヨタは政権との良好な関係作りに苦心してきた。トランプ氏は大統領就任直前、メキシコに新工場を建設する計画だったトヨタを名指しして、「アメリカに工場を新設しろ、さもなければ高い関税を払え」とツイート。「口撃」に慌てたトヨタはすぐさま、5年間で100億ドルもの巨額投資をアメリカで実行する計画を発表した。
トヨタは現在、アラバマ州にマツダとの合弁による新工場を建設中で、16億ドルを折半で投資し、4000人を新たに雇用する。トヨタ幹部は「(現地の)ビッグ3はどんどんリストラを進めているが、アメリカでトヨタはあくまでも外資系。ビッグ3と同じようにやってはいけない」と話し、立ち振る舞いに細心の注意を払っている。
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