研究開発力で挑む革新的新薬の創製 世界に挑む創業300年企業の戦略

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オープンイノベーションで進める研究開発

「世界には現在も治療法のない病に苦しむ人が大勢います。そうした、いまだ満たされないアンメットニーズに応える、世界で闘える『グローバル スペシャリティ ファーマ』を目指しています」と相良氏。そのビジョンのもと、同社は4つの成長戦略を定め、次代への成長軌道を描こうとしている。

まず取り組むのが「製品価値の最大化」だ。同社が最大の成長ドライバーと位置づける、がん免疫療法薬について、現在20を超えるがん腫の適応取得を目指している。また、ほかの薬剤や治療法と併用することで治療効果を高める併用療法の開発も進めている。

がん領域以外にも有望な製品を豊富に持っていることも同社の強みだ。「2018年度は、がん悪液質治療薬、慢性心不全治療薬などの承認申請を行いました。19年度下期には業績に大きく貢献するはずです」と相良氏は自信を見せる。

次いで成長戦略の2つ目には、「R&Dの変革」を掲げる。とりわけ医療ニーズの高いがんや免疫疾患、中枢神経疾患を重点研究領域に定め、開発資源を集中させている。驚異的なのはその臨床試験の数だ。現在がん免疫領域では70もの臨床試験が行われており、それ以外の領域でも常時50~60の臨床試験が行われている。そして、最速で承認取得にまでたどり着くべく、スピード化にも注力した開発体制が整えられている。

また創薬においては、「オープンイノベーション」で世界の最先端の技術や知見を取り入れ、新薬創製を進めている。「当社のオープンイノベーションの歴史は『プロスタグランジン』の合成に挑んだ時から60年以上を数えます。技術も資金も限られている中、社外から学ぶことでイノベーションを創生してきました。今でこそ声高にうたわれるこのオープンイノベーションも、当社では昔から当たり前に取り組んでおり、研究の基本として根付いています」と相良氏が語るように、長い年月をかけて蓄積してきた、ほかにはないネットワークやノウハウが同社の財産。現在も大学や研究機関、独自の技術を持つバイオベンチャー企業と国内で約160件、海外で約110件、合わせて約270件もの共同研究を進めている。さらに、次世代中分子創薬技術や抗体技術、コンピュータ創薬技術なども取り入れ、新たな創薬モダリティによる画期的な新薬創製にも挑んでいる。「重点研究領域以外でも面白い候補物質が見つかれば、疾患領域にこだわらず挑戦したい」と積極的だ。

一方で、新薬候補化合物の導入および自社創製化合物の導出も積極的に行う。将来を見据え、開発パイプラインを拡充するためには、自社創薬を補完するライセンス戦略は欠かせない。導入競争もグローバルに激しさを増しており、有力な化合物を手に入れるのは容易ではないが、積極果敢な経営姿勢で海外の企業とも渡り合う。「『これだ』と見込めば、私自身が交渉の場に赴き、トップ自ら熱意とスピード感を伝えます。それが、資金力で圧倒的な差のある世界の企業との競合にでも勝る当社の強みです」

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