
企業に属さない「新しい働き方」
株式会社はたらこらぼ
代表取締役
日下 章子氏
日下 「まちの人事部」は、地方創生の一環として岡山県奈義町が人口減少に歯止めをかけるために、「ひとづくり」と「しごとづくり」をサポートする目的で2017年4月にスタートしました。奈義町から委託を受けた地域再生推進法人のナギカラを中心に、人材コンサルティングを手がける当社「はたらこらぼ」と町民の運営スタッフとで、休業中のガソリンスタンドをリノベーションした「しごとスタンド」を拠点に活動しています。メインとなる事業は、町民の「ちょっとだけ働きたい」と地元企業の「人手が足りない」をつなげるワークシェアリング事業です。
井上 「しごとコンビニ」は、主にお年寄りや子育て中のお母さんたちからの「少しの時間だけ働きたい」という声に応えるためにできました。企業に属さずに空いた時間、都合のいい時間で働く新たな選択肢を提供し、同時に地元企業の人材不足も解決するシステムです。
株式会社はたらこらぼ
井上 翔平氏
日下 「しごとコンビニ」ができた当初は、ひとつの仕事を1人にお願いするという形をとっていました。しかし、時間やスキル、業務実施への不安などにより、自信を持って仕事ができないという人が出てきました。そのため、時間や業務を分解しチームで働けるようにし、より多くの人が安心して業務が行える体制をつくりました。
井上 その後しばらくは、こちらから仕事を選ぶことはせず、ご依頼いただいたものを受けていた状態でした。すると、今度は「仕事はあるが、やりたい仕事がない」という声が上がってきたため、皆さんのやりたい仕事ができる体制を整えようと、皆さんのやりたいこと、好きなことをもとに仕事を創出する方針を新たに打ち出したのです。
山本 容子氏
日下 例えば、文章を書くことが好きな人に対しては、座学とOJTで学べるライター講座を実施し、未経験でも自信を持って仕事に挑戦できる環境も整えています。修了後は、インタビュー記事やSNSの投稿原稿の作成などの仕事をお願いしています。
井上 仕事の幅を広げるために「こんな仕事ができる」と町内外の企業にこちらから営業をかけることもあります。例えば、「企業サポーターズ」と称して、消費者感覚を生かした新商品開発や売り場づくり、モニター調査なども行っています。実際に県内企業から発注を受け、ギフト内容の検討、写真撮影、チラシ作成を担当したケースも出ています。ただ、対企業のお仕事をやった経験のない登録者もいるため、仕事を実施する前に、必要な専門知識の研修をしたり、仕事の質などに関するアドバイスを行ったりし、皆さんの「頑張りたい」という気持ちを応援できるようサポートしています。
(奈義町指定地域再生推進法人)
代表理事
一井 暁子氏
一井 こうした取り組みは、全国の自治体の中でも珍しい試みだと思います。「しごとコンビニ」のポイントは、仕事を創り出すとともに、皆さんが何をやりたいのか、一人ひとりの生き方や働き方の希望に視点を置いていることだといえます。
井上 「しごとコンビニ」の登録者は145名(2018年12月末)で、高齢者と主婦の方々が中心となっています。登録者とは定期的に面談を行い、登録者のカルテを作成し、それをもとに研修内容を個々にカスタマイズしています。

仕事を人に合わせることで「働く」ことを「楽しく」
一井 奈義町では町外に働きに行く人も多いのですが、「しごとコンビニ」を利用すれば、地元で自分のやりたい仕事や自分の希望する働き方で働くことができるのです。すでに登録者の中には月15万円を稼ぐ人も出てきています。
井上 登録者の希望する仕事や働き方を実現するために、「しごとコンビニ」では関係者会議を毎週行っています。登録者の方々の悩みや課題を速やかに解決していくことがいちばん大事だと思っているからです。
一井 このように、役場、町民、民間企業が一体となって、利用者の声をくみ取っていくことで硬直的な運営を回避しています。目標達成のために細かく修正をしながら運営できる官民連携が、「しごとコンビニ」の特徴です。ある意味で、地方創生推進交付金をシードマネーにスタートアップ企業を育成しているようなものだといえるでしょう。
日下 はたらこらぼは「はたらく を たのしく」が企業理念です。だからこそ、子育て世代のお母さんたちにも笑顔で仕事をしてほしいと強く思っています。特に小さなお子さんがいると、看病などで急遽仕事を抜けたり休まなくてはならない機会も多く、”申し訳ない”という気持ちが積み重なり疲弊しがちです。こうした状況を、チームで補い合い、自ら時間を選び働ける環境をつくることで、働くことを楽しいと感じ、子育てに前向きになっていただきたいのです。
一井 一方で、地元企業の中にはSNS発信やマーケティングをやりたくても手が回らないことが少なくありません。その部分をしごとコンビニのメンバーがカバーすることで企業にとってもプラスになるというケースが増えています。個々の好きや得意を活かして、企業のやりたいけどできないことを解決したことは大きな成果だと思います。
誰もが使える「コンビニ」のような存在に
日下 ホームランを打てる人材よりも、ヒットを量産できる人材をたくさん育成していきたいです。これまでは地方創生といえば、”ホームラン人材”が注目されがちでしたが、それでは普通の人は追いついていけない。次のフェーズは普通の人が活躍する場をつくる必要があると思っています。
山本 私も「しごとコンビニ」が文字どおり、誰でも気軽に訪れることができて、皆さんが希望する働き方で、好きな仕事が選べるような場にしていきたいと思っています。
井上 地方には「こうしかできない」という意識にとらわれている地域も多いように見えます。でも、世の中は思っている以上にはるか先に進もうとしています。これから”地方の常識”を打ち破っていくためにも「しごとコンビニ」のようなものが必要です。まずは試してみること。そこから目指す姿に徐々に近づけていく姿勢が欠かせないと思っています。
顧客視点を生かした商品開発も
「しごとコンビニ」を利用した地元企業はどんなメリットを感じているのだろうか。お歳暮ギフトの詰め合わせ内容の検討などを発注した有限会社阪本鶏卵の阪本晃好社長は次のように語る。「私どもの会社は養鶏場から加工品まで一貫生産している会社ですが、PR活動までなかなか手が回らない状況でした。新商品の開発でも、私どもだけでは作り手の目線になりがちです。しかし、今回消費者感覚を生かして出来上がった商品は、こちらが考えもしなかった新鮮なネーミングやデザインで売れ行きもよく、リピートしてくれるお客様も増えています。今後はネット通販回りのお仕事もお願いできればと思っています」。
他方、この仕事に関わった1児の母である30代の有元ゆかりさんは、企業サポーターズの1人。「子供との時間を大切にしながらも空いた時間を有効に使って、仕事を通して社会貢献したいと思っていました。自分が好きなことをやって喜ばれるのはとても楽しいですね」。
また、60代の菅原昭子さんは、奈義町に移住して3年目。「移住当初は周囲との接点がなかなかつくれませんでしたが、『しごとコンビニ』をきっかけに地域の方と話をする機会が増え、知り合いも増えました。若い時は家庭のために働いていましたが、今は働くことが自分の意欲につながっています。縫物が好きで、思い出の品をリメイクするといった仕事にもトライしています」。
行政だけではできない柔軟性とスピード感を実現
奈義町役場 遠山 健一朗氏
事業開始当初から、運営スタッフときめ細かいミーティングを行ってサポートしています。「まちの人事部」は、役場にはない視点で事業を展開し、丁寧なヒアリングによってつねに登録者の要望に寄り添って仕事を生み出しているのがすごいところ。また、テレワーク推進のためのパソコン教室開催など仕事の前段階での人材育成も、柔軟な発想とスピード感で取り組んでもらっています。今後もさらに、喜びや安心、楽しみなど付加価値のある働き方を生み出せるように展開していってもらいたいと考えています。