河瀬監督「メールより絶対会いに行く」 デジタル時代にこそ「時間と空間を共有」
河瀬 もちろんです。スタッフは「ビノシュクラスになると、ハリウッドで使うシャワー付きの専用カーが必要」と言っていたけど、私が直接彼女に「そういうところじゃないから」と伝えて、みんなと一緒にお寺の宿坊に住んでもらいました。食事もみんなと同じ、森の中です。
清水 何か伝えたい相手と同じ「場」を共有するのは本当に大切だと思います。私が国際学会に積極的に行くのは、発表のためだけではないんです。それ以上に、学会の後にみんなで飲みに行き、「今どんなことやってるの?」とか「発表ではこう言ったけど、実は……」と情報をシェアするのが楽しいんです。メールでは、そこまで通じ合えないですから。
河瀬 よくわかります。メールを送れば仕事は終わりというのが今どきの感覚かもしれませんが、私は必要なら絶対会いに行きます。デジタル技術を使えば情報を早く渡せるけど、その情報をどれだけキャッチしてもらえるかという深さは、会いに行くのにはかなわない。
英語を話せるに越したことはないが……
清水 学生には「用があるなら直接行け」と言っています。便利な世の中になればなるほど、ほかの人とどのように接するのかというところが重要になってくる。グローバルな時代にこそ、そこは忘れないでほしいと思っています。直接行くという意味で、留学は海外を知る貴重な機会です。私が所属する龍谷大学国際学部のグローバルスタディーズ学科は留学が必修です。海外に行くと、予測していなかったトラブルに見舞われるものです。私自身も留学中、学費を振り込んだのに「振り込まれていない」と言われて困ったことがあります。そんなことで日本に帰れないから、レシートを探し出して必死に交渉した。大変でしたが、こうした経験が人を成長させます。そう考えているので、グローバルスタディーズ学科は、留学中のトラブルも学生本人に解決させます。「どうしても難しいときだけ言ってくれ、それ以外は手を貸さんぞ」と。
河瀬 「かわいい子には旅をさせろ」ですね。実は私、英語が話せないんです。言われていることはわかるし、簡単な日常会話程度なら問題ないんですが、深い考察をして対話するとなると、通訳に頼るしかありません。でも、困ったことはあまりないんです。映画に関わる人たちとは同じ映像言語を持っています。ですから、通訳を介しても、言葉が通じるその辺の日本人より、むしろ通じるぐらいです(笑)。もちろん英語を話せることに越したことはないと思います。ただ、それ以上に、自分の魂の中にどういう言葉を持っているのかということのほうが大事じゃないかと。