河瀬監督「メールより絶対会いに行く」 デジタル時代にこそ「時間と空間を共有」

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清水 日本から発信するという意味では、私も近いことをやってきました。ニュージーランドの大学院で博士号を取得したのですが、海外で職を得ることができず帰国しました。若くして海外に出た人にありがちなんですが、「どうせ日本の研究なんてたいしたことない」となめていました。ところが、日本で研究を再開したら、世界に通用するような、すごい先生が大勢いました。

河瀬 何の研究ですか?

清水 哲学の京都学派の研究です。京都哲学は、時代でいうと1910年代から戦争が終わった後くらいまでです。実存主義の思想家ハイデガーと同じような哲学を、ハイデガーより先にやっていた学派です。ただ、それだけ当時、先進的な研究をしていたのに、京都学派は戦争協力をしてしまうんです。それはなぜかという研究が帰国後の日本で行われていて、その内容もまた示唆に富んでいるんですよ。ところが、日本の先生はあまり海外に出て行かないから、優れた研究をしているわりに海外でプレゼンスを示していない。もったいないので、先輩方の研究成果を私が海外の学会に行ったりして発信しています。

伝わらないことを前提にした伝え方

河瀬 とても難しそうな研究ですけど……。海外の方に伝わりますか?

清水 京都学派は日本語でも難しいのに、それを英語で伝えるのは正直大変です。そもそも本質的な問題として、われわれ研究者は言葉で勝負する職業であるものの、研究対象には言葉では語れないものもあるんです。頭から矛盾することをやっているわけです。ではどうするかというと、伝わらないことを前提にして、逆に「伝わらないんだ」という伝え方をしています。具体的には、「伝えるのは無理だけど、頑張って伝えるよ。だからお互いにわかったフリをするのはよそう」と言います。そうすると相手も必死になって聞いてくれるし、お互いに必死になると、何かが重なって「それだ!」という瞬間がやってくる。それを地道に積み重ねていくしかないですね。

河瀬 確かに言葉だけでは限界がありますよね。私はいつも合宿しながら映画を撮っているんですが、俳優やスタッフが現場に通うのではなくて、現場に住み込んで、同じ時間や空間を共有してもらうんです。みんなで同じ体験をすると、何かしら同じものをキャッチして、言葉を超えたものを共有できるので。

清水 最新作『Vision』はジュリエット・ビノシュが主演で、吉野の山が舞台でしたね。世界的女優にも森の中で合宿してもらったんですか?

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