河瀬監督「メールより絶対会いに行く」 デジタル時代にこそ「時間と空間を共有」

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デジタル化の進展が、ビジネスのグローバル化を加速させ、人々の生活を豊かにしてきた。一方で、メールやSNSの広がりが、人と人との直接的な関係を希薄にさせたとの指摘もある。こうした時代において活躍するのはどのような人材なのか。そして、そのような人材になるためには何が必要なのか。ともに世界を股にかけて活躍する、映画監督の河瀬直美氏と龍谷大学国際学部教授の清水耕介氏が「グローバルで活躍する人材」をテーマに、大いに語り合った。

清水 私は今、「戦争をなくすための世界観を仏教から探れないか」というテーマで研究しているんですが、河瀬さんの作品に近しい世界観を感じています。とくに、奄美大島を舞台にした『2つ目の窓』を見たときに、「ああ、そうなんや」と。 

河瀬直美
奈良県を拠点に創作活動に取り組む映画監督。カンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭での受賞多数。東京 2020 オリンピック競技大会公式映画監督に就任

河瀬 私は、人々がもっと優しい心や包容力を持って、お互いの思想を認め合える世界になればいいなと思って映画を撮っています。ただ、現実として、映画を見たから戦争をしないということにはなってない。大切なのは、やはり教育です。スペインのある監督が、こんな話をしていました。「表現でどんな民族、どんな文化の人たちとも育み合うことができればいい。でも、大人になって自分の思想が固まった中にそうした表現がポンと入ってきても、人を変容させるところまでいかない。もっと幼い頃からの教育が重要で、そこにアーティストも関わるといいね」と。

清水 教育ですか。

河瀬 教育といっても、学校という場に限定する必要はありません。隣のおばちゃんがかけてくれる言葉も含めて、自分を形成してくれるもの。そこに関わる人がもっと増えればいいなと思っています。

清水 なるほど。教育者としては、芸術の力の強さに憧れます。事後報告になりますが、実は河瀬さんの作品を授業で紹介させてもらっているんですよ。仏教思想はややこしくて、言葉で表現しきれないところがあります。例えば「失うことで開かれる」と言っても、学生たちはポカンとしています。だから私は、「河瀬さんの映画を見ろ」と言っています。

河瀬 ありがとうございます。素直にうれしいですね。

日本から世界へ発信し続ける理由

清水耕介
龍谷大学国際学部グローバルスタディーズ学科教授。関西外国語大学国際言語学部講師・助教授を経て、現職。専門は国際政治経済理論やポストコロニアル理論、ポスト構造主義。Ph.D.(国際関係)

清水 本日のテーマは「グローバルで活躍する人材」です。まさに河瀬さんご自身がグローバルに活躍されていますが、ちょうど年末年始にかけて、パリのポンピドゥー・センターで1カ月半に及ぶ展覧会を行われたと聞いております。向こうでの反応はいかがでしたか?

河瀬 日本の伝統を伝えるインスタレーションを通って、私の回顧展にたどり着くつくりにしたのですが、皆さん「日本にいるみたいだわ」と言ってくれました。それを見た方からベルギーで開催したいと声がかかり、展開することが決まりました。そのほかの国からも声がかかっていて、各国で展開していくことになりそうです。

清水 世界各地で引っ張りだこですね。

河瀬 奈良県を拠点に映像をつくっているんですが、作品が国境を越えてさまざまな場所に行ける可能性があるのは、とてもうれしいことです。外のものを見て表現することもいいけれど、私は自分の足元を掘り下げて表現したい。それが世界を巡って交流が生まれれば、「地球をみんなで育む」ということにつながっていくのかなと思います。

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