少子化対策には妊よう性の知識も必要 低い日本人の妊娠への意識と理解
こうした状況を生み出している要因の一つに、不妊についての正しい知識が普及していないという事実がある。日本の女性の約40%は、40代の女性と30代の女性の妊娠率はほぼ同じと考えているという(※2)。だが実は40代と30代では、妊娠率に大きな開きがある。高齢化が妊娠に大きなインパクトを与えているという知識が、女性にも広く浸透していないという現実がここから透けて見える。正しい知識がないために、調べもせず治療も受けず、「いつでも子どもはできる」と誤った情報を持っている人も多いのではないだろうか。
※2:Maeda et al. 2015. A cross sectional study on fertility knowledge in Japan, measured with the Japanese version of Cardiff Fertility Knowledge Scale (CFKS-J). Reproductive Health 12:10.
高度不妊治療に対する助成も実施
前述したようにメルクセローノは、不妊に関する情報を提供することも自社のミッションと考えている。そのため同社は昨年8月からスタートさせた「Yellow Sphere Project」の一環で、自社の社員を対象にした教育啓発を実施している。日本では、妊娠を避けるための性教育は行われているが、妊娠についての教育は家庭でも学校でもほとんど行われていないのではないだろうか。池田氏はそうした教育の大切さを訴えて次のように言う。
「日本は妊よう性(妊娠のしやすさ、妊娠する力)についての知識が普及していないという国際的な調査もあります(※3)。こうした現状の中、一企業としてまずできることは社員教育と考え、そこから始めました。このような考えが少しでも広まり、男女問わず1人でも多くの方に関心を持っていただくべく当社の専門分野である生殖医療や不妊の領域で、啓発活動を通じた呼びかけを進めたいと思います」
※3:Bunting L, Tsibulsky I, Boivin J. 2013. Fertility knowledge and beliefs about fertility treatment: findings from the International Fertility Decision-making Study. Human Reproduction, 28:385-97.
ちなみに「Yellow Sphere Project」では、男女ともに月に1度、不妊治療のための有休休暇が取れるようにしたり、健康保険が適用されない高度不妊治療に対する助成を行ったりもしている。地道な、そして息の長いこうした取り組みを、同社は粘り強く続けていく方針だという。
こうした企業の取り組みに加え、少子化を改善し出生率を上げるためには国や社会全体での対応が必要だ。