
特別インタビュー
会計ファイナンス研究科長・武見浩充教授
「会計・税務」と「ファイナンス」で磨く
グローバル時代に勝つ力
―― 専門職大学院で学ぶことの意義は。
武見浩充
武見 私どもの社会人学生の多くが、25~35歳という世代です。今まで、彼らが誰を相手に競争してきたかというと、同じ世代の日本人でした。しかし、急速にグローバル化が進む今日、この世代が正面切って戦うのは外国人、とくに近隣諸国のアジア人です。幼少のころから富を築き、社会的栄達を目指せといわれてエリート教育を受けてきたアジアの若者との競争に、ゆとり教育で育った日本人が勝つためには、何か一つとがった能力を身に付ける必要があります。
また、肯定的に受け入れられている「ダイバーシティ」という言葉も、裏を返せば年齢、性別、国籍など一切関係なしに、皆がイコールフッティングで競争させられる厳しい時代を象徴しています。こうした社会だからこそ、個を際立たせる専門職大学院で学ぶ意義が高まっているのだと確信しています。
――会計ファイナンス研究科がコミットするものとは何ですか。
武見 学生本位に徹することです。残念ながら、専門職大学院で得られる知識そのものは3年程度で陳腐化します。そこで、卒業後10年、20年経っても価値が失われない専門性を具備した会計、税務、財務の専門職業人を養成するために、われわれは「Hybridization(複合化)&Layering(重層化)」をキーワードにして、卒業後も高いレベルでの教育を自ら継続的に行っていける素地を作ることを念頭に置いています。
公認会計士、税理士などの資格も、単に取得しただけでは、一段と複雑化し、変化するビジネス環境に対応できません。時代に要請されているのは、それぞれの専門性とそのほかの知見が複合化した高度な能力をもって実務にあたれる人材――たとえば、税に精通した会計士、会計に精通した税理士、税と会計に精通した財務の専門家です。そこでわれわれは、基本的に2年間でこの複合的な高度専門性の基礎をしっかり固められるカリキュラムをつくり、提供しています。
一方、税務も会計もグローバル化が進む中で、国内標準/基準のみならず、今後ますます関係が深まるアジア諸国の標準/基準にも適応できる重層化した知識、能力を獲得しなければなりません。当大学院の修了生が会計や税務のプロとして、たとえば現地で重用されるためには、各国のアカウンティングスクールと比較しても遜色のないレベルで教育を実践していることが大きな意味を持ちます。このレベル感をつねに維持するために、日本、中国、韓国、台湾の会計教育で重要な役割を担う専門家をメンバーとした、アドバイザリーボードを設置しています。会計ファイナンス研究科の教育が、一流のアジア標準と比較してどうかの点から厳しくチェックしていただき、忌憚のない意見、提言に基づき、つねにカリキュラム内容を見直し、教育の質の向上を図っています。
――具体的なカリキュラムの特徴は。
武見 社会人学生にとって最も貴重な時間を効率的に利用できるように、土・日曜日中心(市川キャンパス)、平日夜間(丸の内・虎ノ門サテライト教室)、サマースクール導入という無駄のない学習環境を整備していることが最大の特徴です。また、最短3年で2つの学位を取得できるマルチディグリー制度を設け、Hybridizationに対応(この制度を使って、税法、会計分野の論文を作成し学位を得ることで、税理士試験の税法系3科目のうち2科目の試験免除申請に加えて会計系2科目のうち1科目の試験免除申請が可能)。
会計士志望者向けに短期集中/試験対策型の短答式非免除科目(企業法)講座を提供するほか、FASS(経理・財務スキル検定高スコア確保/向上)などにも対応する多彩なカリキュラムを提供しています。さらにアドバイザリーボードメンバーが教鞭を執るアジアの大学などへの留学の途も、英語能力次第では開かれています。
キャリアアップにしろ、キャリアチェンジにしろ、先々を見通して自分自身の価値を高めていくことがとても大事です。当大学院は新しい時代を拓く方々が、国内外のライバルと繰り広げる熾烈な競争に勝つ力を磨けるよう万全の体制でバックアップしていきます。
解説編
卒業生の忘れられない言葉とは

インタビューにも登場した会計ファイナンス研究科長の武見浩充教授には、忘れられない言葉がある。「卒業後に中国に帰って会社を起こした留学生と再会した際、先生に会社を潰さない方法を学んだ、と言われました」。はなから、彼女は起業を見据えながら学んでいたと言う。が、実感のこもったひと言から、会計ファイナンス研究科で得た知や技能がよほど身を助けたのではないかと想像してしまう。確かに、会社を潰さない方法論も稼ぐ力の大切な要素に違いない。
彼女のように、会計ファイナンス研究科の1割程度を占める海外からの留学生は起業を視野に入れている者が少なくない。このほか、社会人が約半数。一方、千葉商科大学の卒業生は全体の1割に満たない。なぜ、かくも多様な層から選ばれているのだろうか。「市川における土日の集中講義に加え平日の夜間には丸の内や虎ノ門のサテライトで開講するなど、社会人に対してビジネスのコアタイムを外したカリキュラムがフィットしているのではないでしょうか」とは武見教授の見立てだ。
しかし、はたから見ると、会計ファイナンス研究科ならば稼ぐ力を確実に身に付けることができる、との評価が広がっていることが大きな要因として浮かび上がってくる。武見教授が応える。「確かに、たとえば税理士さんの世界は強いコミュニティが機能しており、私どもの教育内容についても口コミで浸透しているようです」。卒業生が同僚や後輩たちに語りかけるリアルな感想、あるいは卒業生自身が仕事場やクライアントの前で見せる立ち居振る舞いも注目度の向上に寄与しているのであろう。

実際、社会人学生の満足度は高い。「定員は70名ですが、別途毎年20名弱が科目等履修生の制度を使って卒業後も学び続けています。数多くの社会人学生が稼ぐ力を磨いているという手応えを感じているからこそ、これだけの人数に達しているのだと確信しています」。何しろ、手厚い。すべての講義を録画しているので欠席した場合はDVDでフォローすることが可能。公認会計士から税理士、ファイナンシャルプランナーに加え、内部監査人やIFRS(国際財務報告基準)に至るまでさまざまな専門を目指す学生への道具立てもしっかりとラインナップする周到さだ。このように、多忙な社会人学生に寄り添いながらも、アウトプットを求めるハードルは決して下げない。
ハードな論文指導で社会人を鍛える

「過去の論理体系を土台としてサムシングニューが求められる学術論文は、レポートとはまったく異なるたいへんつらい負荷を克服しなくてはなりません。実際、2年間で論文の完成に至らず、学位に届かない学生が、どうしても3割程度出てしまいます。しかし、ここを緩めることはできません」。
先行研究を徹底的に読み込み、そこから自分なりのアプローチで新たな論理を創造する。たとえば税理士としてクライアントの相談を受ける場面を思い浮かべて欲しい。理論と言う他人の思考回路にどっぷりとつかってからオリジナリティを発揮するという訓練は、相手の課題や環境に共感を寄せながら最適な解を差し出す能力を涵養するはずだ。
会計や税務、ファイナンスのプロフェッショナル、または起業を目指すにせよ、こうした技能は稼ぐ力の基盤になるだろう。その上に、それぞれの目的やキャリアプランに合わせ、最新の実務からアカデミックな領域に至るバランスの取れた科目群から、幅広く深い知と実践のための方法論をビルドアップしていく。そうして磨き上げられた力は個人の競争力を高めるだけではない。そんなプロフェッショナルがチームに一人いるだけで組織に刺激を与えるだろう。
学生にハードな負荷をかけ、鼓舞する会計ファイナンス研究科は、武見教授へのインタビュー編にある通り、自身が科長を務める研究科を外からの厳しい視線にも同時にさらしてもいる。
社会人学生への配慮から自らのブラッシュアップまで、千葉商科大学の会計ファイナンス研究科はここまでやるからこそ、ややもすれば影が薄くなる会計大学院全体の中で、現在ある強い存在感を獲得したのだと納得できる。