独自の創薬手法で革新的な新薬を創製
代表取締役社長
相良 暁
医薬品業界を取り巻く環境が厳しいといわれて久しい。社会保障費の増大に歯止めをかけるため、薬価の引き下げやジェネリック医薬品への切り替えといった医療費抑制政策が促進され、近年さらに過酷さを増している。それに対し、「どのような政策が打ち出され、厳しい市場環境になっても、それを勝ち抜き、企業理念である『病気と苦痛に対する人間の闘いのために』革新的な医薬品を患者さんに届ける使命を果たし続けていかなければならないと思っています」と覚悟を語るのは、小野薬品工業の相良 暁代表取締役社長だ。
2017年に創業300年を迎えた小野薬品工業は、中堅企業ながら、経営資源を新薬開発に集中させ、他にはないユニークな医薬品を創製することで、確かな存在感を示してきた。それを可能にしているのが、独自の創薬手法「化合物オリエント」だ。
1960年代に生理活性脂質「プロスタグランジン」の全化学合成を企業として世界で初めて達成した同社は、その過程で豊富な脂質領域の化合物を蓄積するとともに、その中から医薬品の種を見つけ出して創薬につなげる「化合物オリエント」という独自の手法を確立。これをもとに数多くの革新的な新薬を世に送り出してきた。そして2014年、これまでにないメカニズムを持つ画期的ながん免疫療法薬の実用化に成功し、飛躍の足がかりをつかんだ。
持続的成長のための成長戦略
「医薬品業界全体で新薬創製の成功率が低くなる一方で研究開発費がますます増加する今、より良い医薬品をより速く開発することに加え、より低価格で生み出し、収益をあげて、さらなる研究開発投資を行っていかねばなりません」と相良氏。小野薬品工業はこの難題を克服し、次のステージへと歩を進めるべく、新たな成長戦略を実行に移している。

その一つが、「製品価値の最大化」だ。「当社にとって最大の成長ドライバーであるがん免疫療法薬の価値最大化に向けては、適応がん腫の拡大に取り組んでいます。すでに承認取得している悪性黒色腫(皮膚がん)、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がんに加え、現在20を超えるがん腫の適応取得に挑んでおり、8つのがん腫は最終の臨床試験段階まで開発が進んでいます。同時に、他の薬剤との併用によって治療効果をより高める併用療法の開発などにも取り組んでおり、増産にも対応できるよう山口県に新工場を建設中です」とその取り組みを語る。
また、ジェネリック医薬品の普及促進策や開発期間の長期化によって新薬のライフサイクルがますます短くなっており、製品価値を高めるには、早期の上市とともに最短でピークセールスに到達することも必要になる。すでに、医薬品を発売する前段階でエビデンスを構築し、医学・科学情報を提供するメディカルサイエンスリエゾン(MSL)の増員やマーケティング部門の強化に注力しており、「発売した時点には勝負がついているところまで後発企業との差を広げておきたい」と戦術を練る。

二つ目の成長戦略として挙げたのが「R&Dの変革」だ。「世界のトップランナーとなり得るがん免疫療法薬を開発したことで、重点を置くべき研究領域がはっきり定まりました。化合物オリエントからの創薬だけでなく、医療ニーズの高いがん、免疫疾患、中枢神経疾患などを重点研究領域に据えて経営資源を集中的に投入。ポストがん免疫療法薬として、ファーストインクラスを狙える革新的な医薬品開発に挑みます」。
同社の新薬開発の強みは、「化合物オリエント」に加えてもう一つ、「オープン・イノベーション」にある。昨今、さまざまな分野でその重要性が語られているが、小野薬品工業がオープン・イノベーションに取り組み始めたのは、50年以上も前にさかのぼる。プロスタグランジンの全化学合成をはじめ早くから国内外の有力な大学や研究機関と積極的に共同研究を行い、世界から最新の知見を結集して先端領域の研究を進めてきた。そのネットワークや実績のアドバンテージは決して小さくない。「今後は、医薬関係以外との連携も模索したい。情報や工学など、これまでなかった分野とのコラボレーションも必要だと考えています。おもしろいテーマが見つかればぜひ挑戦したい」と意欲的だ。

三つ目の成長戦略が、「海外への挑戦」だ。国内の事業環境が厳しくなる一方でグローバル市場は拡大しており、その規模も成長可能性も国内とは比較にならない。同社はすでに韓国、台湾に現地法人を設立し、自社販売をスタートしており、次に相良社長が照準を定めるのは、世界最大のマーケットである欧米だ。これまでアメリカの大手バイオファーマであるブリストル・マイヤーズ スクイブ社とタッグを組み、がん免疫療法薬の欧米での承認取得を成功させているが、次は「自力」での進出を目指す。「まずは当社の強みを発揮できるニッチな市場に焦点を当て、自社販売の第一歩を踏み出したい。すでにいくつかの候補化合物に的を絞っています。それらをはずみに『本気で』ビッグマーケットへ乗り出します」と自信を見せる。
グローバル市場を見据えCSRを推進
小野薬品工業は今、その姿を大きく変えようとしている。「これまでは市場も企業風土もどちらかといえばドメスティックでしたが、がん領域に足を踏み入れたことを機に、新しい風が必要になりました。新領域を開拓していくために、既存の価値観にとらわれない個性的で多様な人財を増やしています」と相良氏。女性の活躍推進のための体制づくりや働きやすい職場作りを進めるだけでなく、人種や国籍はもちろん、専門やキャリアに捉われず、多様な人財の採用を進めている。

加えて、今後グローバルに事業を拡大し、さらに激しい競争を勝ち抜いていくためには、どのような事業環境の変化にも揺るがない強固な企業基盤が欠かせない。そのためコーポレート・ガバナンスを強化するとともに、CSR経営も積極的に推進する。「人々の医療に役立つ有効性と安全性に優れた質の高い医薬品を開発することを根幹としながら、環境や社会への貢献も企業としての責務だと考えています」と相良氏。東日本大震災復興支援の一環として、14年から被災地の子どもたちを対象に開催する「すこやかカラダ大作戦」もその一つだ。「被災地で社会課題の一つになっている小児の肥満に着目し、その解決の一助になればとトップアスリートや生活習慣病の専門医と連携して、子どもたちにスポーツや体を動かす楽しさを伝える活動を行っています。これまで福島県、宮城県、岩手県の3カ所で実施し、来年度以降も継続する予定です」。また、同社はMR全員が「認知症サポーター養成講座」を受講し、認知症患者やその家族が安心して暮らすための支援も実践しており、認知症患者が制作した絵画や書道などの作品をWEBサイト上で紹介する「ふれあいつながる作品展」も好評を集めている。その他、小中高生を対象に出張授業も実施。薬や理科への関心を促し、優秀な理系人材の育成にも寄与する。「マーケットを世界に定めた時、企業経営もグローバルスタンダードにそって推進していく必要がある。今後さらにCSR活動へも資源投入を進めるなど企業基盤を強化していきます」と意欲的だ。
創業300年を越えてさらなるチャレンジ
新薬開発に特化する小野薬品工業の経営方針は一貫している。今後世界のビッグファーマと互角に渡り合っていけるかどうかは、画期的新薬を生み出す研究開発力にかかっている。「そのために研究開発費として年間1千億円を投じることのできる企業基盤を築くことが当面の目標です」と相良氏。18年はその門出にふさわしい年となりそうだ。すでに複数の新薬が臨床試験の最終段階にあり、19年度にかけていくつもの新薬が上市される予定だ。
「いまはまだ世界に一歩を踏み出そうとしている新参者にすぎませんが、世界で認められるグローバル・スペシャリティ・ファーマを目指して取り組んでいきます」。次の100年に向けて、小野薬品工業の挑戦は続く。