若き博士たちが明かす意外な「本音」とは? 分野も固定観念も、軽々飛び越えて描く将来
このように本プログラムは、人材育成を超えて異分野融合による物質科学の進展に寄与する枠組みへと成長しつつある。
国内、海外の研修で得た 進路すら変わる「学び」
本プログラムでは、国内研修や海外インターンシップなど、学外で多様な経験を積むことも重視する。入学当初は将来も大学に残り、研究者になることを考えていたという大場さんは、国内研修を経て進路を大きく転換した。
「3ヵ月間、国内企業で技術営業を経験し、研究とは異なるダイナミズムで社会やビジネスが動いているのを目の当たりにしました。世の中を動かす面白さを感じ、強く興味を持つようになったのです。広い世界で自分の力を試し、異分野を融合したイノベーションで世界に影響を与えるような、大きな仕事をしたいと思い、民間企業への就職を決めました」
森岡俊文さん(工学研究科)も、国内外での研修を機に産業界へと目を向けた一人だ。「海外研修や研究室ローテーションを通じて、異分野の人はもちろん、言語や文化の壁を超えて連携できるという自信がつきました。
より多くの人と力を合わせることで、一人の研究では成し遂げられないことも達成できる。そうして、既存のものをブラッシュアップするだけではなく、イノベーションを起こすような規模の大きい開発・モノづくりに携わりたい。強くそう思うようになり、企業への就職を決意するに至りました」と振り返る。
一方、量子情報科学を研究する竹内勇貴さん(基礎工学研究科)は、シンガポール国立大学にある、量子情報に関する世界屈指の研究機関で研修を経験。自らの研究意欲を強めたという。「世界トップレベルの研究や研究者を間近に見て、また同じ研究領域を志す海外の学生とディスカッションなどで切磋琢磨し、大いに刺激を受けました。英語の習得度一つとっても、自分にどの能力が足りないのか日々思い知らされる環境でした。
いつか私も世界最高峰の視座に立ち、そこからどんな景色が見えるのか確かめてみたい。自分で創出したテーマに沿って、成果物を海外にも展開できるような力を付けたいと考えています」と、世界に照準を合わせる。
何より学生が異口同音に強調するのが、「異分野の人とのつながり」の貴重さだ。
「製薬会社で国内研修を経験し、一つの専門分野を究めるだけでは歯が立たないと痛感しました。社会に出てからも、さまざまな領域の人と協力して課題を解決していく力は必ず必要になってくる。その時にきっと、ここで得た同世代の仲間とのつながりが、大きな糧になると思います」(溝手さん)
卒業生が社会で実感する、確かな「効果」
すでに社会で活躍しているプログラムの卒業生にも、話を聞いた。プログラム1期生(特別選抜生)として量子光学を専門に学び、2017年3月に卒業した浅野元紀氏は、当時について「通常の博士課程ではできない体験を、多々させてもらえました」と述懐する。
「実際の業務でも、さまざまなバックグラウンドを持つ先輩方と組むことが多いのです。自分と異なる分野の、いわば門外漢にも理解しやすいよう工夫してプレゼンすることは、良いトレーニングになりました。プレゼン能力はどの世界に行っても必ず求められます。学生特有のフラットな環境で異分野の人と広く関わった経験はつくづく貴重なものだったと、卒業・就職してからよりいっそう強く感じます」
浅野氏も、プログラムを通して進路の方針を大きく転換した過去がある。「進学当初は、卒業後も大学に残って研究を続けるつもりでいました。しかし海外研修などを経て、各分野において最先端の研究者が集う研究所に勤め、腰を落ち着けて研究に取り組みたいと考えるようになりました」