若き博士たちが明かす意外な「本音」とは? 分野も固定観念も、軽々飛び越えて描く将来
「いまや、グローバルスタンダードでは博士号が研究者としての必須条件となっているほど。博士人材が、イノベーションの中核を担っているといえます。世界と渡り合っていくためにも、我々日本の産業界が、博士人材に対する認識を新たにする必要があると考えています」
異なる分野と出合い 多様な視点を獲得
本プログラムでは、物理や化学、材料科学といった、これまで交わることの少なかった学問分野が接し、対話・融合することに力点が置かれている。5年を経て、この試みが学生の成長をはじめ、多様な形の実を結びつつある。
たとえば、特徴的なプログラムの一つに、自分の専門以外の研究領域に属する研究室で、3ヵ月間研究に従事する研究室ローテーションがある。燃料電池の電極に使われる触媒を研究する田中雄大さん(工学研究科)は、自身が専門とする化学系の研究領域とは異なる物理系の研究室を選択した。
「特に、それまで触れたことのなかった『測定技術』を学べたことが収穫でした。それを自分の研究に取り入れて成果を出し、新たな角度から論文を発表することができました。研究室ごとに異なる雰囲気に触れられて、刺激的な体験でした」と、異なる観点との出会いが、論文という具体的な成果につながったと振り返る。
また「高分子化学専攻の私が実際に起きている現象や効果に着目するのに対し、物理系の学生は、現象を数式や理論を使って捉えようとする。見る角度も考え方も違う人と日々議論を重ねる中で、自分自身も論理的に考える力が磨かれました」と大場矢登さん(理学研究科)。
溝手啓介さん(理学研究科)は「たとえば化学を使って生命現象を理解するという自分の研究を、物理系の学生にいかに正しく理解してもらえるか。5年間苦心する中で、専門外の人にも分かりやすく伝える力が鍛えられました」と成長を語る。
括目すべきは、学生らがプログラムから学びを得るだけでなく、それを機に自ら研究発表会やセミナーを主催し、自発的な異分野交流を行っていることだ。
具体的な取り組みについて、田中さんは「たとえば、カデットリサーチセミナーという学生主体の取り組みがありました。分野を超えて、学生同士で研究内容について助言をしあう場です。専門外の内容について気軽に質問できるうえ、研究の幅が広がったと感じます。ほかにも、週に一度、教授と英語で話しながら昼食をとるなどの企画がありました」と話す。臆することなく学問領域を超え、新たな知見を得ようと意欲的に連携を深める主体的な人材が育っている点でも、本プログラムの成果は大きい。
加えて芦田教授は「指導にあたる教員も、プログラムを通じて異分野間で話す機会が増え、互いの考え方の違いを理解し合えるようになりました。産業界の方々にも参画していただきプログラムを構築・改善していく中で、産学連携の下地を培うこともできました」と語る。