なぜ祖国パキスタンがマララさんを憎むのか ノーベル賞を受賞した偉人が反感を買う理由
パキスタンで貧困を脱するのは難しい。15年に国際NPOオックスファムとラホール経営大学が実施した調査によれば、国民を経済力で5階層に分けた場合、最下層に属する家庭の子の40%は死ぬまで最下層を抜け出せないという。
なぜか。貧しい国民の多くにとって、貧困脱出に必要な2つのリソース(教育と土地)を手に入れることは至難の業だからだ。最貧層に属する家庭の子の60%弱は学校に通っておらず、農村部の貧困層の約70%は土地を持っていない。
マララに嫉妬する中間層
もちろん、パキスタンでも急速な都市化で新たな雇用が生まれ、貧困を脱して中産階級の仲間入りを果たす人は増えている。しかし、さらに上流階級への階段を上るのは不可能に近い。
にもかかわらずマララは一介の教師の娘から、一足飛びで世界的なセレブへと上り詰めた。そしてこの秋からは、イギリスの名門オックスフォード大学に進学する。
こんなにも早く、こんなにも劇的な変身を、パキスタンの人々は見慣れていない。だから本当のこととは思えず、何か裏があると思いたくなる。ペシャワル大学のアーマー・ラサ准教授の言うとおり「社会の階段を上ろうとしてもどうせ失敗すると思い込んでいるから、急にリッチになるような人には不信感を抱いてしまう」のだろう。
パキスタンでマララを最も声高に支持しているのが特権階級の人々である理由も、そこにあるのかもしれない。自分が特権階級なら、マララに嫉妬する必要も敵意を抱く必要もない。
しかし苦労して貧困からはい上がり、ようやく中産階級にたどり着いた人たちはどうか。彼らがさらに飛躍して裕福になり、あるいは有名になるチャンスはほとんどない。だからマララが名声を得るようになったことを腹立たしく思う感情が、より強く芽生えるのだろう。
若さ、くじけない力、勇気、国を愛する気持ち。マララが体現するものは、パキスタンという国とその国民が誇るべき資質である。しかし彼女の成功はパキスタンの陰の部分を映し出してもいる。それはテロが絶えず、性差別が根強く残り、陰謀説が渦巻く現実だ。階級格差も深刻で、みんなが共通の価値観を持てる状況ではない。
世界のヒーローが悪者にみえてしまうほど複雑で、引き裂かれた国パキスタン。それでもいつかは戻りたいと、マララは念じている。祖国だから。
(文:マイケル・クーゲルマン)
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