「競争法リスク」に求められる経営判断とは? 数百億円の制裁金、個人の収監事例も発生

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ところが、「私的独占」となると行為に対する評価が難しくなります。一般的な企業であれば、自分たちが生き残るために、競争相手に勝って市場シェアを増やすのは当たり前の行為と思われても、その行為が「私的独占」と言われることもあるのです。

日本企業の競争法違反がなぜ繰り返されるのか

富田 域外適用がなされ、複数の国の当局により多重制裁を受ける事例も見受けられます。一つの不正が何倍ものリスクになることもあるわけです。莫大な制裁金を支払った日本企業もあるように、摘発件数は増えています。中には同じ企業が何度も摘発されている例もあります。背景にはどのような要因があるのでしょうか。

茂木 まず日本独自の文化や商習慣、たとえば「お互い様」という意識が悪い方向に進む場合があります。さらにビジネスのために「必要悪」として考える現場の人も多かったと考えています。むろん、そのような理屈は世界では通用しません。特に昨今は外国人株主が増えていることから、巨額の制裁金などが科された場合には、株主代表訴訟などにより経営者自身の責任が問われることになります。実際に、役員らが会社に数億円の解決金を支払うような和解も成立しています。

業界の勉強会などがカルテルや談合の温床とされたこともあります。海外では今でも現地の「日本人会」などがあり、競合企業同士が交流しているところもあります。プライベートのつもりで無防備に情報交換をしていると、当局から摘発されるリスクもあります。

渡邉 惠理子
長島・大野・常松法律事務所 弁護士
独占禁止法(競争法)を専門として、この分野に関する当局による調査対応、一般企業法務、企業結合、コンプライアンス、訴訟案件を担当。1995~98年まで公正取引委員会事務総局に勤務、慶応義塾大学ロースクール教授、政府関係機関委員や国際大会のパネリストなど、第一線で活躍している

渡邉 確かに、私的な会合やゴルフであっても、価格などについて言及し、他の行為と一連の行為としてカルテルと認定されるケースも相当あります。また、かつてはライセンス契約の当事者、あるいはジョイントベンチャーのパートナーとして正当な共同行為を行っていた相手方と取引関係が解消されたにもかかわらず、パートナーであるという意識だけが残ってしまい、軽い気持ちで「今後のために情報共有を続けましょう」と会合を継続し、「今後の相場はこう推移するでしょう」というやり取りをすることがあります。これはカルテル行為そのものになる、あるいは少なくともカルテルを行ったと強く疑われることになります。

富田 独占禁止法や競争法で摘発される例と言えば、かつては、部品メーカーなど製造業が多かったのですが、最近では、金利や為替レート操作など金融の世界にも広がっています。さまざまな業界に影響が及び始めたことから経営者の関心や意識も高まっているようです。一方でその意識が従業員に浸透しているかと言えば、企業によって温度差があるようです。

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