「競争法リスク」に求められる経営判断とは? 数百億円の制裁金、個人の収監事例も発生

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グローバル化が進み、海外ビジネスで日本企業が直面するリスクも増大している。中でも対応に苦慮するのが各種法令に対するコンプライアンス・リスクだ。特に日本の独占禁止法に相当する反トラスト法や競争法に違反したとして、日本企業に巨額の制裁金が科されるケースも珍しくない。企業にはいまどのような取り組みが求められるのか、リスク管理ソリューションを提供するトムソン・ロイター・ジャパンの富田秀夫社長が、企業のリスク管理に詳しい渡邉惠理子弁護士と有限責任監査法人トーマツの茂木寿ディレクターに聞いた。

500億円の制裁金や個人の収監事例もある

富田 グローバリゼーションの進展により、日本企業を取り巻くリスクも多様化しています。各国の法令への対応が喫緊の課題になっていますが、最近はどのような傾向があるのでしょうか。

茂木 近年ではやはり、コンプライアンス・リスクが大きな問題になりつつあります。中でも日本の独占禁止法に相当する競争法に関しては、各国の政府が摘発を強化しています。日本企業でも、国際カルテルに関与したとして、巨額の制裁金を科されたり、従業員や役員が制裁金や禁錮刑などの刑事制裁を受けたりする例が増えています。米国だけの例でも、2011~17年6月末の間に、司法省と合意書を締結した例が34件(51社)、制裁金総額は約29.4億ドル(約3238億円*1)、1社最高額は約4億7000万ドル(約531億円)となっています。また禁錮刑になった人が27人で、個人の制裁金も2~8万ドルが科されています。

渡邉 かつて、競争法コンプライアンスと言えば、米国や欧州連合(EU)など主要なところを押さえれば足りると考える傾向がありましたが、カルテルについては中南米、最近では、中国や東南アジアでも当局の動きが非常に活発になってきています。また、域外適用*2についても、米欧だけでなく、日本でも、新興国でも摘発例が出てくるなど、カバーすべき地域は圧倒的に拡大しています。さらに、複数の競争当局が連携して効果的に摘発を行うケースも多く、どの国でもリスクが高まっています。

もう一つ、近年の傾向として、「私的独占」など、正当な企業活動との区別が必ずしも容易ではない行為についても競争当局から厳しい判断が下されており、こういった問題への対応が課題になっています。カルテルや入札談合は、販売価格のすり合わせ、販売地域の分割、受注者決定など、競争回避に向けた、違法であることがわかりやすい行為類型です。

*1 1ドル=113円で換算
*2 域外適用…自国の法律を自国外での行為に適用すること。競争法においては、行為自体が国外でなされても、その行為が「自国市場に影響を及ぼす」という理由で適用されることがある
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