新日鉄住金「技術流出」訴訟が示した危機意識 関与した元従業員「個人」を訴えた意味

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日本ではまだ珍しい産業スパイ行為の責任追及だと評価できるのか。

「確かに、日本では、まだ、訴訟によって産業スパイの責任追及が行われることが、それほど多いとはいえません。しかし、憂慮すべき重大な技術流出事案がマスコミにより大きく報道されるに伴い、日本企業の有する技術情報が中国や韓国などの外国に流出することをいかに防ぐかということが、重要な問題であるとして、社会一般に広く認識されるようになりました。

その結果、2015年7月の不正競争防止法の改正により、罰金刑の額の引き上げ、犯罪で得た利益の没収、未遂罪の処罰などが図られました。改正の背景には、このままでは、日本企業の有する高い技術力と国際競争力の低下に繋がりかねないという危機意識がありました。

ただし、外国企業による産業スパイ行為の責任追及は、容易なことではありません。今後の法改正により、捜査機関に司法取引やおとり捜査の権限を認めたり、証拠が外国に存在する場合には当該外国の捜査機関の協力を求めたりすることがスムーズにできるようにならないと、実際の摘発は難しいといえます。その意味で、今後も、さらなる法改正が必要になってくると思われます」

技術力の低下は国際競争力の低下に直結する

今後、日本において同様のケースを厳しく追及する企業は増えるのか。

「そのような日本企業が増えていくことを期待したいと思います。もちろん、各企業のポリシーや技術情報の重要性の程度などに照らして事案ごとに考える必要がありますが、一般的に、情報漏えいに関わった従業員の責任追及をせずに放置しておくことは、他の従業員の規範意識を鈍くさせるおそれがあり、決して望ましいことではありません。

従来であれば、『何も従業員個人の責任追及までしなくても……』という考えが一般的だったかもしれませんが、日本企業の国際競争がますます熾烈となっている現在、技術力の低下は国際競争力の低下に直結し、日本企業の存立基盤を崩壊させかねません。情報漏えいに関わった個人を絶対に許さないという企業の姿勢は、当該企業だけでなく、日本の産業界全体での再発防止効果につながるといえます。

とくに最近は、日本企業を退職した技術者が新興国企業に転職するケースが増えており、日本企業の有する技術が海外に流出するのではないかという危機感が広がっています。同業他社に転職すること自体は必ずしも違法とはいえませんが、元の勤務先で知った秘密情報を転職先で開示したり使用したりすると、元の勤務先から提訴されることがあり得ることを、従業員の側でも、はっきりと認識しておく必要があります」

遠藤 誠(えんどう・まこと)弁護士
1998年弁護士登録。2006~2011年、北京事務所に駐在。2013年に、大手の法律事務所から独立し、「ビジネス・ローの拠点」(Business Law in Japan)となるべく、BLJ法律事務所を設立し、現在に至る。中国等の外国との渉外案件・知財案件を中心とする企業法務案件に従事。「世界の法制度」の研究及び実践をライフワークとしている。
事務所名:BLJ法律事務所

 

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