北朝鮮を攻撃すればソウルで100万人が死ぬ トランプ政権の「先制攻撃」は絵に描いた餅だ

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米韓両軍は3月1日から、朝鮮半島有事を想定した毎年恒例の合同軍事演習を開始した。演習は約2カ月間続き、今年の訓練の参加人数は、過去最大規模で実施した昨年の米韓両軍計31万7000人を上回るとみられている。

2016年の米韓合同軍事演習では金正恩氏ら要人を狙った「斬首作戦」と称する訓練を実施し、北朝鮮は強く反発した。今年も斬首作戦の訓練をはじめ、北朝鮮国内の核やミサイルの施設を攻撃する訓練が行われる見通しだ。韓米両軍は今年2月中旬には既に、ソウル北方の京畿道抱川市で北朝鮮の大量破壊兵器(WMD)関連施設を探索・破壊する過去最大規模の演習も実施している。

北朝鮮への軍事力の行使に慎重だったオバマ前政権と違い、トランプ政権は、このように米国の強大な軍事力を背景に、北朝鮮への先制攻撃をちらつかせ、金正恩体制に圧力をかける戦術に乗り出している。

過去の苦い教訓

確かに、米国が軍事攻撃の覚悟を示さないと、北朝鮮は譲歩しないという過去の教訓もある。1990年代の「第1次核危機」の際、クリントン大統領が核施設攻撃を決意した段階で、北朝鮮は核放棄に応じた。しかし、その危機が去ると、北朝鮮は核開発を再開した。また、ブッシュ大統領が「悪の枢軸」と非難し、イラク攻撃に乗り出すと、北朝鮮は6カ国協議に応じた。平壌は軍事攻撃の危機やレジームチェンジの危機に直面しないと、譲歩しない歴史がある。

クリントン政権期の第1次核危機と、2000年代のブッシュ政権期の「第2次核危機」のように、米国は今回も軍事オプションを検討している。しかし結局、先制攻撃をした際の韓国や日本の被害リスクが大きすぎる。今回も実行には移せない可能性がかなり高いのではないか。

北朝鮮の金正恩氏は過去の経験から、たとえ第3次核危機が起きても、北に対する武力行使や政権転覆などの米国の強硬姿勢は、単なる脅しであると判断する可能性が高い。トランプ大統領も、やりたい放題の北朝鮮の金正恩氏を放置せずに、米国民向けに強い指導者としてのイメージを広めるジェスチャーに利用するだけかもしれない。

なぜ米国は北朝鮮への軍事攻撃が難しいのか。

一番の理由として、ソウルは、南北の軍事境界線から40キロしか離れてない一方、平壌は150キロほど離れている。このため、北朝鮮は戦略上有利にソウルを「人質」にとっていることがある。

2016年版防衛白書によると、北朝鮮の地上軍は、約102万人を擁し、兵力の約3分の2を非武装地帯(DMZ)付近に展開していると考えられている。戦車3500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、口径240ミリと300ミリの多連装ロケット砲(MRL)や170ミリ自走砲といった600門を超える長射程火砲をDMZ沿いに集中配備する。これらを撃てば、韓国総人口の約半分の2500万人を占める首都ソウル一帯に着弾できる戦略的な強さを有している。

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