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仕事のモチベーションを上げる「大胆戦略」 『嫌われる勇気』の岸見一郎氏と
「第3回グッド・アクション」受賞企業に学ぶ

  • 制作:東洋経済企画広告制作チーム
生産性の向上には、社員らのモチベーションUPが欠かせない。しかし、商品やサービスのイノベーションに傾倒する一方で、モチベーションを高める的確な施策を打ち出せている企業は多くない。社員一人ひとりの心を奮起させるには、企業経営者や管理職、人事担当者はどうすべきなのか。また一般社員にとっては、モチベーションとどう向き合うべきなのか。
リクナビNEXTが実施する「第3回グッド・アクション」では、そうした課題解決に向けたユニークな取り組みが表彰された。大ヒット作『嫌われる勇気』著者である岸見一郎氏へのSpecialインタビューも交えながら、職場を盛り上げるグッド・アクションのためのヒントを学ぶ。

岸見一郎氏に聞く
モチベーションUPのヒント

岸見 一郎/1956年生まれ。哲学者。
京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。奈良女子大学文学部非常勤講師などを務める。専門のギリシア哲学研究と並行してアドラー心理学を研究

青年と哲人の対話形式で「アドラー心理学」の核心を解き明かしていく『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)は、シリーズ累計206万部超の大ベストセラーだ。心の悩みの原因を追求し、今の時代で幸福に生きるための道標を示した。

「アドラー心理学」のもとで、仕事のモチベーションとはどのようにとらえられるのか? 著者のひとりである岸見一郎氏は、「"貢献感"がモチベーションの源にある」と解説する。

「給与を得て生活を維持していくことが労働の基本的な目的ですが、それだけで強力なモチベーションにはなり得ません。人間は日々の糧を得るために生きるのではなく、幸福に生きるために働くからです」

アドラー心理学でいう幸福とは、"他者を仲間だとみなし、そこに「自分の居場所がある」と感じられる"ことで生まれる"共同体感覚"を有した上で、"「わたしは誰かの役に立っている」という主観的な感覚"である"貢献感"を得ることにあるという。

「自分の仕事と社会とのつながりが見えづらい場合もあるかもしれませんが、どのような職種でも会社でも"共同体感覚"を得ることはできます。すべては見方の問題に過ぎません。それに、共同体や組織に受動的に所属するのではなく、自分には共同体を変えていく力があると知ることも大切です。なにかできることはないか?という視点を持ち、人任せにしない。ひとりの力は、意外と大きいのです。こうして他者への貢献に想いを巡らすことで"貢献感"が高まり、ひいては幸福に、モチベーションUPにつながっていくと思います」

一方の管理職や人事部は、社員に"共同体感覚"や"貢献感"が養われるよう取り組むべきだと話す。

最新刊『幸福の哲学 アドラー×古代ギリシアの智恵』 (講談社現代新書)

「他社との競争が資本主義の原理となっているからこそ、社内は『安全な場所』だと感じてもらうことも大切です。社内でも『余計なことをいえばどうなるかわからない』という雰囲気では組織への所属感が実らず、"共同体感覚"も"貢献感"も希薄です。包括的なプロジェクトを行う際も、『社員のみなさん』ではなく、一人ひとりに話しかけるイメージで取り組みましょう。また、『ありがとう』は非常に有効な言葉。自分が貢献できているのだと明確になりますから、それだけでも社員のモチベーションは変わります」

背中で語るというのも有効な手段だと、岸見氏は説く。給与のためだけではなく、喜びや意欲に満ちあふれて仕事する姿勢は、自ずと部下たちに伝わっていく。アドラーも「勇気は伝染する」といっている。

「『グッド・アクション』で取り上げられた企業もそうだと思いますが、結果的には大きなアクションとなっても、最初はほんの小さな一歩からスタートしたはずです。最初から、なにもかも変えるわけにはいきません。すごくささいなことでも、やがて大きな波となって組織を変えうる力となります。まず、自分が変わること。自分は、自分しか変えられないこと。そうした気づきが大事です」

いま企業はどのように取り組んでいる?
「第3回グッド・アクション」表彰式に潜入!

リクルートキャリアが運営する転職情報サイトのリクナビNEXTは、2月7日に「第3回 グッド・アクション」表彰式を行った。

「グッド・アクション」とは、各職場が独自に実施している人材育成やコミュニケーション活性化策、そして社員のモチベーション向上などにつながる取り組みに光をあてる企画だ。開催初年の2014年には日本の生産年齢人口が32年ぶりに8,000万人を割り込み、生産力の維持や確保を目的とした働き方の変革が急務となったことを背景に、各職場のヒントになる取り組みの発掘を目指したものだ。

審査員は、一橋大学大学院商学研究科教授の守島基博氏、SAPジャパン株式会社常務執行役員人事本部長、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与、NPO法人GEWEL副代表のアキレス美知子氏、慶應義塾大学特任講師で株式会社NewYouth代表取締役の若新雄純氏、そしてリクルートキャリア・リクナビNEXT編集長の藤井薫氏の4名。藤井氏は主催者挨拶の中で「働き方改革の実現。そのためには、国の支援や企業の推進も重要ですが、主役はあくまで現場にいる個人。そして、個人が集まった職場なのだと思います。それこそが未来の“はたらく”を切り拓いていきます」と述べ、個人のモチベーションUPを含む「グッド・アクション」が企業や社会全体を活性化させるとの考えを示した。

会場には「グッド・アクション」に選ばれた8つの取り組みの代表者が呼ばれ、各取り組みを紹介するとともに、そのチャレンジ性や独自性などを講評された。

次ページからは、特に仕事のモチベーションUPへとつながる施策を実施した4つの取り組みについて、審査員のコメントともにご紹介する。

全社員の投票でボーナス額を決定
3C評価制度で「立ち止まる力」が養われた

情報検索プラットホーム開発企業のフォルシアでは、「3C(スリーシー)評価制度」と呼ぶ全社員による評価制度を実施した。具体的には、特別賞与の原資を公開した上で、自分以外の全員に分配する設定で全社員が全員の賞与額を記入。その結果を実際の支給額を決める際にも重視するという取り組みだ。

同社の取り組みについて、若新氏は「仲間に対する新しい視点ができた」点を評価する。実際、同社では制度導入後、光が当たりづらかったエンジニアの成果も正しく評価されるようになったという。

慶應義塾大学特任講師、株式会社NewYouth代表取締役
若新雄純

「人が人を評価するという評価制度は僕達人間社会にとって永遠のテーマであり、非常に曖昧でインチキな部分も含んでいます。しかし今回の例では、他部署にいる仲間についてあえてしっかり立ち止まって考えるという機会や、気づきを生む余地が生み出されました。完璧な評価制度は存在しないと考えていますが、常に試行錯誤し続けることは重要でしょう」

こうした新しいアクションは、成果ばかりを気にしていては起こせないと若新氏はいう。

「信頼できるかどうかも大きいと思うのです。『これを社員にやらせて無茶苦茶な評価をつけられたらどうしよう』など考え出せば、なにも生まれなかったはずです。この企業では基本給与への評価方法は従来のままに、特別賞与だけに360度評価を実施したというのも、ちょうどいいバランスだったのだと思います。『ここは試していい』という出島のような特区があると、積極的な取り組みを後押ししてくれるはずです」

この取り組みによってフォルシアは全社員の"共同体感覚"を高め、モチベーションUPにつなげた。

「モチベーションUPで重要なのは、自分が作る側に関わっているかどうか。『一人ひとりが経営者になったつもりで……』というよく耳にする言葉は、実際は不可能な状況ですのでインチキなのですが、社員であっても当然制度や仕組みを作る側にはなれます。立ち止まったり、遠回りすることになっても、自分ゴトとして仕事に関わることができれば、モチベーションが上がるのではないでしょうか」

HRテックが生んだ科学的アプローチ
「人材育成エンジン」が最適解と納得解を生む

主にインターネット広告事業を手がけるセプテーニグループの持株会社セプテーニ・ホールディングスは、「人材育成エンジン」を中枢に置いた科学的人材育成を実施。800項目以上のデータをもとに人材データを分析し、機械学習等を中心に蓄積されたデータを解析することで、採用や社内適応、育成、戦力化を図っている。

「正しいデータに裏付けされた評価は、最適解でもあるし、納得もできるのです」と話すのは、藤井氏だ。

リクナビNEXT 編集長
藤井 薫

「人材の配置や育成は、これまでKKD=勘・経験・度胸で判断されていましたが、これからはKDD=Knowledge Discovery in Databaseの時代に入ります。データの中から新たな知見を発見するという意味です。もちろん正しい結果を生むためには、インプット、プロセッシング、アウトプットというデータにまつわる3つのプロセスを正しく行う必要がありますが、同社の『人材育成エンジン』のコアとなっている相性の分析は、組織の最適化を支援する会社であるヒューマンロジック研究所が提供するFFS理論を用いて行われており、非常に丁寧にやられているのではないでしょうか。こと人事に関しては、最適解だけでなく本人が納得することも大事。同社ではマネジャーをどんどん巻き込み、システムの有効性を地道に検証することで『意外と使えるね』という社内評価を獲得していったといいます。そうした地道さも評価したポイントでした」

納得感のある「人材育成エンジン」による正しい評価を受けられれば、過剰な承認欲求に萎縮することなく、より自由に仕事に取り組める。

「多くの研究でも示されていますが、モチベーションを高める要素のひとつは、自立性。クルマにたとえれば、自分でハンドルを握ることです。リスクがあっても、助手席で不満をつぶやいているだけより、よっぽど乗り心地がいいからです。また、フィードバックも重要です。カーナビのようなもので、運転した結果がどうなったのかを常に示してくれると、自分が上げた成果がよくわかります。フィードバックがあるから、『今度はこっちの道を試してみよう』とチャレンジできます。データを前に「自主性とフィードバック」を適切に得られる環境が、セプテーニ・ホールディングスの組織作りにつながっているのだと思います」

少日数勤務や在宅勤務を認め
生産性UPで年間売上が増加

オンラインゲームなどの開発、運営、販売を行っているシグナルトークは、同業他社と同じく長時間労働の常態化に悩まされていた。企業の将来を憂いた人事担当者は、コアタイム以外の時間帯は自由に出勤・退勤できる「成果報酬型」と、1日8時間の実働時間に対して基本給を支払い、残業発生時には時間外手当も支払われる「時間報酬型」の選択制度を提案し、後に制度化。さらに社員からの提案で、個々の事情に合わせた少日数勤務や在宅勤務を認める「FreeWorking制度」も導入した。

守島氏はこの取り組みについて「働き方改革の、一種の雛形」だと述べる。

一橋大学大学院商学研究科教授
守島基博

「リモートワークや裁量労働制だと、収入減になってしまうのではないかと恐れる声は多いものです。育児や親の介護に時間を使いたい気持ちがある一方、それによって収入が減ってしまうのにも不安が残る。しかしこの企業では、成果型と時間型の2つの報酬体系を用意したところが優れているところ。労働時間を減らしても成果を出せば報酬が下がらないので、モチベーションも上がります。働く人が、働く時間を自分に取り戻すよい取り組みだと思います。社員の中から出た制度改革の起案に、社長が積極的にコミットメントしたのもすばらしかった」

注目すべきは、制度を導入したあとの同社の年間売上が、下がるどころか上がっていることだ。社員にとってより働きやすい環境が、企業の利益にもつながるという好例だ。

「社員のモチベーションを高める基本は、不安を取り除く、困りごとを解決してあげる姿勢を示すことです。『24時間戦えます』という昔の働き方はいまや不可能で、働く人にはいろいろな事情を抱えています。企業としてその解決に寄り添うことが、モチベーションUPにつながるのだと思います」

たった1時間の事業部間"留学"もOK
積極的交流で社内ノウハウをシェア

現場発の取り組みが、社内のモチベーションUPに大きく貢献した例もある。

メディアやマーケティング事業、人材アウトソーシング事業などを行うレバレジーズは、全社員の約2割強に当たる120名を1年で採用するなど急成長を続けているが、その反面、部署を超えたナレッジの共有が課題に上がった。各事業部の中核メンバーが自主的に話し合い、「社内勉強会」や「事業部間交換留学制度」を起案。社内の風通しを良くし、ノウハウをシェアする施策として実施が認められた。

「毎回100名以上が参加しているという『社内勉強会』もすばらしいですし、『事業部間交換留学制度』もユニークな試みだと思います」と語るアキレス氏。同制度では、営業同行やミーティング参加など、最低1時間から他事業部に顔を出すことができる。

SAPジャパン株式会社常務執行役員人事本部長、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与、NPO法人GEWEL副代表
アキレス美知子

「真面目にキャリアを考えていれば、他の部署は何をやっているのか気になるものです。でも、いきなり手を上げて覗きに行くのは勇気がいること。仕組みがあり、たった1時間でも他部署に行っていいという気軽さは、とても魅力的です。交流を深められますし、自分のキャリア形成における有益な知識や経験も得られます」

売り手市場であり、人材不足が慢性化する今日において、優れた人材に長く働いてもらうのは重要な課題だ。定着率の向上を図る人事の施策は成果が見えづらい場合も多いが、積極的に実施することが大切だとアキレス氏はいう。

「最終的には人事部が取りまとめますが、レバレジーズのように現場から生まれたアイデアをどんどん取り入れ、フィードバックを得ながら改善していくという軽快さも、企業には必要でしょう。そしてなにより、働く個々のモチベーションは企業経営にとって一番大事な部分です。上司が命令するから仕事するのではなく、自らやりたいと思う気持ち。そうしたモチベーションの火を灯し続けていくには、社員の力を信じて任せる企業文化が不可欠です」

個人の課題を傾聴していく姿勢が
モチベーションUPの端緒になる

「グッド・アクション」に表彰されたこれら企業のように、社員のモチベーションを高める秘策は、どのように生まれてきたのか。

守島氏は、これまで3回連続で携わった「グッド・アクション」の審査を通じ、工夫に満ちたモチベーションUPの動きが進化していることを感じたと話す。

「過去にも運動会や社内旅行、大規模な飲み会などがありましたが、今では思うような効果を得られなくなりました。働くスタイルや個人の嗜好が細分化されましたし、自分の貴重な時間を割いてまで参加しようとする人は激減したからです。そのため、ランチタイムを使ったコミュニケーション促進や社内SNSの積極活用など、さまざまな工夫が行われるようになっています。すべての社員をカバーできなくとも、可能な限り多くのニーズに対応できる施策を複数実施する。働き手が多様化してきたように、施策にも多様性が求められているのです」

大局的な観点からすれば、社員に"共同体感覚"や"貢献感"を持たせようという動きに、今も昔も変わりはない。しかし、そこへ至る方法は変化し、さらに多様化しているというわけだ。

「私は日頃、戦略的人材マネジメントの重要性を説いていますが、社員のモチベーションUPを図る上では、働く人のそばに寄り添うことがなによりも大切だと思うようになりました。昔は労働組合の力が強く、職場の先輩や上司との関係も密接で、頼りにできる存在が多くありました。しかし現在は、良くも悪くも関係が希薄化しています。業務の課題はもちろん、日々のささいな困り事まで聴いてあげる姿勢が企業にあれば、意欲もわいてくるはずです」

必要となるのが、傾聴のスキルだ。世代や役職、肩書といったラベルを見て型にはまった対応をするのではなく、その人の本心から発せられる言葉に耳を傾け、一緒に課題を解決していく。何を喜びとして働いているのを知り、応援する。

「人事施策は、マスに向けて対応してしまいがちです。それを認識した上で、出来る限り個別に対応できるよう柔軟性を持ってあたりましょう」

管理・監督する側の人事担当者は、規律に反するものがいないか、とかく厳しい目で社員らと対峙しがちだ。しかし働き方が多様化する今、人事担当者に求められるのは、労働と幸福を両立する道を示すこと。一人ひとりに耳を傾け、多彩な施策を通じて改善を図っていくことがモチベーションを高め、ひいては生産性の向上につながっていくはずだ。

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