超人気棋士が抱く「将棋ソフト」への拒否感 人工知能は将棋指しの「敵」なのか?

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将棋ソフトに危機を感じる棋士たちの姿は、将来の我々の姿とみることも可能か…(今井康一)

クレームを受けるのは気が重いものである。

2015年6月のことだ。アムステルダムのホテルにチェックインするとすぐに、私はある将棋指しに国際電話をかけた。窓の外の陰鬱な天気と同様、私の心もどんよりと曇っていた。旅行中だというのに。

電話の相手は超人気棋士。私の書いた記事に気分を害しているという。事情を聞くために本人に連絡すると、受話器越しの声には刺が感じられた。

私の職業は将棋観戦記者だ。

プロの公式戦を朝から晩まで盤側に張りついて観戦し、新聞や雑誌に「観戦記」を書く。内容は記者によってさまざまで、まずは指し手の解説、そして対局の舞台背景、さらには対局者の情景描写やエピソードなどだろうか。私が特に重視しているのは、一局の流れを明確に記して、その対局がどういう将棋だったのかを読者にくっきりとイメージしてもらうことだ。そのためには、見たことを書くだけではいけない。なぜミスをしたのか、なぜその手を知っていたのかなど、「なぜ」という疑問を大事にして背景に迫っていく必要がある。つまり後日の取材がカギになるのだ。

棋士と記者の距離が近い将棋界

将棋界は棋士と記者の距離が近い。電話番号やメールアドレスも知っているし、何より将棋会館でしょっちゅう顔を合わせる。これは他の勝負事のジャンルに比べると珍しいのではないだろうか。例えばサッカーの試合の記事を書くのに、後日にわざわざ各々の選手に連絡したりはしないだろう。もっとも将棋は指し手の意味を理解するのがパッと見では難しく、棋士の解説が必要という事情もあるのだが。

観戦記を書くうえで対局者に取材をするのは基本なのだが、棋士はいい将棋を指すことが責務で、取材への対応は義務ではない。時間だって取られる。よって、ワンポイントの局面を解説する小さな記事などでは棋士に取材をしないこともあった。冒頭の抗議を受けたのは、その棋士の対局に関する短い記事だった。その将棋を初めて見た時に、アマチュア三段の私の棋力でも終盤戦で形勢が大きく揺れ動いていることがわかった。実に面白い将棋で、すぐに記事にすることを決めた。

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