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次世代医療社会で日本企業が
メインプレーヤーになるために 松尾 淳 × 長川 知太郎 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー

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成功体験の呪縛からの脱却

大手製薬企業の何社かはこうした日本の医療・医薬産業の問題点に気づき、10年ほど前から時間をかけて国際競争力の強化に取り組んできているものの、それ以外の多くの製薬メーカーや医療機器メーカーにおいては、具体的な行動としてはまだ表れておらず、変化に対応できていないのが現状だ。

考えてみれば、この30年間は、日本の製薬企業にとって幸せな時代だった。もともと持っていた化学物質のライブラリーのなかから製品に仕立てたものが、ほとんど実質的なマーケティング活動をせずともブロックバスターとして年間1000億円以上売れていたからである。そういった成功体験があると、なかなかリスクを取って新たなチャレンジをすることが、難しかったかもしれない。

また日本の医療の世界には、「医局」といわれる独特の縄張りがある。問題はこの医局同士の交流がほとんどないことだ。医療の進歩のためにはこの垣根を取り払わないといけないのだが、それは一大学や一企業の提言でどうにかできることではない。やはり厚生労働省が旗を振って、強制的に医局間の人事異動を行うなどの措置を取らないと不可能だろう。

交流が必要なのはメーカー間も同様で、たとえば電子カルテは各社で仕様が違うため、病院間で共有化することができない。しかしこれがもし技術提携によって可能になれば、過去の健診・治療データを参照してより的確な診断やアドバイスをすることも可能になる。その結果、罹患率を下げたり治療までのリードタイムを減らしたりできるようになるはずだ。このような連携を予防や治療後のケアにも広めていけると、全体の医療の質がさらに上がることは間違いない。

上に挙げたいずれの例も、過去30年間にわたる成功体験の呪縛から逃れられず、今までのまま変わる必要がない、あるいは外の世界と交流をして新しい知恵を求める必要などない、と考えてしまう今の傾向につながっているように感じられるのだ。

日本の医療・医薬産業の活路、ジャパニーズクオリティ

このように日本の医療・医薬関連企業は、過去の成功体験に縛られてリスクを取らないことから、今のところ欧米企業の後塵を拝しているが、これから逆転することは十分に可能な潜在的可能性を持っている。日本の医療技術やホスピタリティ、丁寧さ、清潔さ、そして勤勉さはいわゆる「ジャパニーズクオリティ」として、世界で高く評価されている。これを前面に押し出した医療・医薬産業をもっと海外に輸出することを考えるべきだ。

たとえば病院は、いわゆる営利企業ではないこともあり、これまで海外展開はあまり考えてこなかった。しかし現在、大手商社を中心に、マレーシアやインドの病院に出資し、そこで日本の薬や医療機器をその病院で使ってもらうという「医療サービスの輸出」の試みが始まっている。特にアジアの新興国では、高品質な医療に対するニーズが高まっており、一部の富裕層が来日して健康診断を受け、観光して帰るという「メディカルツーリズム」もここ2~3年盛んになってきた。アジアの富裕層は今後も増え続けると予想され、地理的に近い日本は欧米よりも有利である。日本が世界に活路を開くためにも、業種の枠組みを超えて、日本の医療関連産業をグローバルに提案することを考えていくべきである。

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