マイナス金利への準備は、秘密裏に進んだ 日銀が得た多彩な緩和手段
その間、事務方の準備作業は水面下で着々と進んだが、政府サイドでその動きを察知した関係者はいなかった。ある政府関係者は、日銀金融政策決定会合が開催される直前の27日夜、日銀の動きについて「今回はやらないとみている」と言い切っていた。
密かに進められた日銀の事前準備の一つに、マイナス金利を先行して導入したスイス、スウェーデン、デンマークなどにおける実態チェックがあった。
複数の関係筋によると、日銀はこれら3カ国と欧州中銀(ECB)を含めた複数の中銀と、マイナス金利政策を実行に移した場合に発生が予想される様々な現象について、かなり突っ込んだ意見交換を行った。
地銀危機を封印した3段階の階層構造
その成果の一つが、当座預金を3段階に分ける階層構造の導入だ。当座預金残高の全てにマイナス0.1%の利率を適用すると、金融機関の経営に負担がかかるため、これまでに積んだ分はプラス0.1%を維持した。
スイスなどは2階層となっているが、金融仲介機能を弱めることに配慮し、日銀は3階層とすることを決断した。ここで日銀が配慮したのは、地域金融機関の動向だったとみられる。
地域金融機関の当座預金残高は、所用準備額を除くと約20兆円で、QQE)が始まって以降3倍に膨らんでいるが、昨年6月以降は横ばいで推移している。つまり、この基調が今後も継続するなら、地域金融機関全体として負担が急増し、金融システム不安が地方から起きるというリスクを配慮したということだ。
市場の目安になったスイスなどの先行例
また、先行事例を研究した結果は、早速、日銀にとってプラスになる現象を生んだ。29日に発表した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入という発表文のページ1の脚注に、スイスでは0.75%、スウェーデンでは1.1%、デンマークでは0.65%とマイナス金利の先行例を明記した。
その結果、市場の一部では「今後、追加緩和をする場合、マイナス金利を深くするのだろう。そのメドは、先行して実施しているケースが参考になる」(外資系証券の関係者)との思惑が台頭。中には「マイナス金利に限界はない」(外資系銀の関係者)との声まで出てくるようになった。
直前までくすぶっていた「日銀の緩和手段は、完全に制約されている」(国内大手銀関係者)とのムードを払しょくした。