キヤノンの一眼レフで不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角(上)
クリーンルームに求められる清浄度の水準は半導体、医薬品、食品など製造するものの種類によりさまざまだ。カメラの場合、半導体である画像センサー(CCD、CMOS)の製造工程を除き、それほど厳しいクリーン度を要求されているわけではない。
が、“ホコリが舞うクリーンルーム”というのはそもそも、ありえない。「クリーンルームに要求される水準は0・5ミクロンという超微細なチリが大気中にどれだけあるかで測られる。簡易的なものでは『可視塵埃なし』という設備もあるが、それはクリーンルームと言わない。ましてやホコリが舞っているのが見えるというのは、話にならない」とあるクリーンルーム設計者は語る。
なぜ、こんな非常識が放置されているのか。それはクリーンルームの内部が、キヤノンにとって“治外法権”になっているためだ。
請負契約は業務委託元の会社(キヤノン)が現場の請負会社に所属している作業者に直接指示、命令を行えない業務契約だ。仮に直接の指示を行えば偽装請負となり、労働者派遣法違反となる。そのため、キヤノン社員は、作業者を統括する請負会社の管理者に指示を出し、そこから現場の作業者に指示が流れることになる。
04年に解禁された製造派遣を用いれば、現場の作業者に直接指導を行うことが可能だ。しかし、08年末現在、キヤノンは製造現場で派遣労働者を使っていない。3年以上同一業務で派遣労働者を使った場合、キヤノンに直接雇用を申し入れる義務が生じる。生産量に応じていつでも調整できるようにするためには、派遣労働者は不向きなわけだ。
製造派遣が人材を借りることであるとすれば、業務請負は自社工場の中に他社を招き入れることだ。自社工場内とはいえ、金属ポールとビニールテープにより仕切られた向こうは“他社の敷地”であり、その内部の管理は限定的なものにならざるをえない。
キヤノンの社員は原則として、クリーンルーム内の現場に入って指導を行うことはできない。「クリーンルームの上部には窓があって、週1回程度お偉いさんがガラス越しに視察する。そのときだけ事前に台拭きなどをしてきれいに見えるように取り繕う。現場には請負しかいないから、普段の管理はいい加減になっている」(前出の30代男性)と言う。
(桑原幸作 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済)
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