「日本は、これまでに十分な謝罪をしてきた」 岡本行夫氏「70年談話は未来志向で」

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――韓国の場合はどうか。植民地時代に日本国民としての法的地位があるため、より複雑なのではないか。

韓国人との接触は行っていない。韓国の「徴用工」のケースは、異なっている。当時、朝鮮人は、「日本人」として1938年国家総動員法の下で動員された。もちろんこれは、朝鮮を1910年に併合した日本の歴史的な過ちの下に起こったことだ。

つまり、朝鮮人は日本国民とともに動員され、働かされた。日本人同様、軍隊に召集されて兵士として戦うか、工場で働くかしなければならなかった。工場に連れていかれた多くの朝鮮人は、日本人と同じ労働条件下に置かれた。だからその労働条件は、欧米戦争捕虜や中国人労働者が置かれた条件ほど厳しく過酷なものでなかったのではないか。彼らは報酬を受けていたが、もちろん、現金であれ軍票の形であれ、戦争後はすべて紙屑になってしまったため実際上、報酬がなかったことになる。つまり、この件は、賃金未払いの問題と考えている。

――この問題を乗り越える何らかのシナリオがあると思うか。

韓国のケースでは、労働条件の相違だけでなく、法的地位も異なっている。日本は1965年、請求権放棄条約を韓国と締結した。この時点で、「完全かつ最終的に」この問題の解決が合意された。したがって、日本政府内には戸惑いが存在する。この条約は韓国全体を拘束するものであり、行政部門だけでなく司法部門も拘束する。しかし韓国大法院 (最高裁判所) はこの条約に反する判決を行った。

韓国のケースはまったく異なるものであり、現時点で、これがどのように進展するのかはわからない。

日韓の膠着状態を打破するには?

――膠着状態をどのように打開したらよいだろうか。

三菱マテリアルが当時、朝鮮人労働者を使用していたかどうかは、はっきりとはしない。もし使用していたのなら、彼らは日本国民と同じ条件下に置かれていたことを意味する。捕虜や中国人労働者については、これらの人々が非人間的な状態に置かれていた十分な証拠があるが、朝鮮人徴用工のケースでは、資料もなく、どのような責任を負うべきなのかはわからない。

――三菱マテリアルの今回の発表は、8月15日の太平洋戦争終結70周年を記念して予定されている、安倍首相の談話の少し前に行われた。これはただの偶然なのか、私にはわからない。捕虜や中国人労働者に関する今回の決定は、首相の談話に影響を及ぼすのだろうか。

それはわからない。首相談話の中身は安倍首相ご本人が決めることだ。今回の談話について助言を求めるために首相が任命した委員会は、まもなく報告書を出す予定である。しかし、首相の談話は、その報告とは別のものである。70周年を迎え、新たな和解へ続くべき一連の出来事への影響は否定しない。安倍首相は米国議会で演説を行い、フィリピンのバターンやコレヒドールの名前に言及し、戦争に対する深い悔悟を表明した。

三菱マテリアルが使用した米国人捕虜は、ほとんどがバターンやコレヒドールで捕えられた捕虜だ。つまり首相が公式に米国国民に対し謝罪を行ったことにより、民間企業としての三菱マテリアルの決定も容易なものになったと思う。

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