ホンダ「ステップワゴン」大胆変身に託す真意 かつての絶対王者は「3番手」から脱せるか

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ホンダは今後、必要に応じて全世界の車種へこの直噴ターボエンジンを水平展開していく。ターボはいろいろなことができるので、ステップワゴンでもゆくゆくはハイパワーバージョンなどが登場するかもしれない。

改めてデザインを検証してみよう。左右非対称のわくわくゲートをはじめ、見た目にはかなり思い切っているように映る。サイドに特徴的なラインが配されているのは、強く意識したわけではないようだが、担当デザイナーのレース好きが関係しているようだ。たしかに後ろから見ると、ちょっとGTマシンっぽくも見える。

全体のフォルムは、ステップワゴンとしての本質は変えることなく、室内寸法は高さも長さも幅も、最大と胸を張れる広さを実現した。とはいっても、あまりそれを感じさせないよう工夫している。ガラス面積が増えているし、サイドウインドウの角度はハイエースよりも立っているほどだというが、実際あまりそうは見えず、凝縮感がある。

これまでホンダのミニバンというと、メッキを多用しているイメージがある。とくにマイナーチェンジで大幅に増やしてきた経緯があるが、5代目ステップワゴンはそれをやめた。ホンダの販売サイドからは反対の声もあったようだが、あえてメッキの多用をやめたのは、長く乗ってもらえるように、できるだけシンプルにしたかったのだという。インテリアもかなりスッキリとしているのは、北欧家具を参考に、そのエッセンスを採り入れたからだろう。 

2、3列目の乗り心地が快適に

なにより乗り心地がとても快適であることが印象的だった。これまでのステップワゴンの2列目や3列目では少なからず突き上げや硬さを感じたのに対し、5代目ステップワゴンは2、3列目であっても、しなやかでフラットな乗り味に仕上がっている。開発関係者も「まさしくそれは力を入れた部分」と打ち明ける。わくわくゲートのような独特な機構は走りに不利となるものの、それを抑えるために開口部の剛性を高めた。

標準のステップワゴンと同スパーダでは基本的に足まわりのチューニングは共通ながら、乗り比べると印象には違いがある。ちょっと大げさにいうと、違うタイヤを履いたのかと思うくらい、スパーダのほうが踏ん張り感があり、スタビリティが高い。

そのキモになるのがリアのハブベアリングの差別化だ。「それなら標準のステップワゴンにも同スパーダと同じハブを装着しては?」と思うかもしれないが、動きの素直さという点で考えると標準のステップワゴンのほうが上。それぞれに相応しい乗り味が与えられている。

実は筆者も5代目ステップワゴンには興味を持ちつつも、当初はややネガティブなイメージを抱いていた。ところが触れるほどによくできていると、感心することしきりである。モデル末期のセレナを抜きそうな勢いである一方、ヴォクシー/ノアにどこまで食い下がれるか、興味深いところだ。他車にはない大胆な仕組みのわくわくゲートの採用や当初の予定を変更した新型エンジンの搭載など、反撃に向けた並々ならぬホンダの意欲を感じる。

(撮影:梅谷 秀司)

岡本 幸一郎 モータージャーナリスト

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おかもと こういちろう / Koichiro Okamoto

1968年、富山県生まれ。大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の編集記者を経て、フリーランスのモータージャーナリストとして独立。軽自動車から高級輸入車まで、国内外のカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでも25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに有益な情報を発信することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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