花王を抜いた!「シャンプー下克上」はなぜ起きた 成熟ヘアケア市場を席巻した大阪企業の戦い方

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インターネット上で商品をヒットさせるには、デジタル広告の運用も重要だ。だが、その種類は多岐にわたり、TikTokやYouTubeのショート動画など日々新たな媒体や広告のパターンが開拓されている。

これらをI-neはいち早く試し、効果的な広告スタイルを見つけ出す。デジタル広告を代理店に一任する企業も多い中、デジタルマーケティング部隊を内製化することでヒット商品を生むノウハウを社内に蓄積している。「小さな組織で動きが速い。素早いPDCAサイクルで新ブランド開発に成功している」と大和証券の広住勝朗シニアアナリストは評価する。

多くの日用品カテゴリーは大手の寡占が続くにもかかわらず、ヘアケア市場で下剋上が起きたのはなぜなのか。背景には、新興メーカーへ吹く2つの追い風があった。

下克上を可能にした2つの理由

1つ目は、OEM(商品の受託製造を行う企業)技術の高さだ。多くの中小メーカーは工場を持たずに商品の製造をOEMに委託し、ブランディングやマーケティングに特化することが多い。

ヘアケアは化粧品同様にOEMの技術が高く、新興メーカーでも十分に戦える土壌がある。同じ日用品カテゴリーでも洗濯用洗剤の市場では、ヘアケアほどOEMが充実していないため差別化が難しい。大量生産・大量販売を得意とする花王、P&G、ライオンの大手3社による寡占状態が続く。

ヘアケア市場で台風の目となったのが2015年発売の「ボタニスト」。2019年発表会でのI-neの大西洋平社長(撮影:今祥雄)

I-neはファブレスメーカーであることを強みとしている。200以上のOEMとつながりを持ち「商品ごとに毎回細かくコンペ(複数の企業から提案を受け相手先を選ぶこと)をして、一番適切な取引先を選ぶ」(大西社長)。

1つのブランドの中でもシャンプー、ヘアオイル、ボディソープなど商品によってOEM先を変更しているという。

2つ目は、ヘアケアが化粧品の性質も持ち合わせていたことだ。ブランドのストーリー付けや、コンセプトに合った成分や使い心地など情緒的価値が、日用品カテゴリーの中で受け入れられやすかった。今まで大手は安売り競争でシェアを広げてきたため、高単価商品を一部展開しても開発・マーケティングは後手に回っていた。

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