花王を抜いた!「シャンプー下克上」はなぜ起きた 成熟ヘアケア市場を席巻した大阪企業の戦い方

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このためヘアケア市場は、大手メーカーが展開する日用品の安売り商品か、ヘアサロンなどで使われるプロ向けの高級品とで分断されていた。I-neは空白地帯となっていた1500円の価格帯に目を付けた。

I-neの社内クリエイターは約9割が中途採用で、デザイン会社や広告代理店の出身者が集まっている。店頭で映えるパッケージも追求し、ブランドの情緒的価値を高めることに工夫を凝らしている。デジタルマーケティングと価格戦略、デザインの三位一体で、I-neはヘアケアを日用品から化粧品に昇華させることに成功した。

花王など大手メーカーも続々参入

とはいえ高価格帯のヘアケアもブルーオーシャンではなくなってきた。

「アンドハニー」や「エイトザタラソ」など1500円程度のヘアケア商品を展開する複数の企業を傘下に持つコスメカンパニーが「ヘアケア市場の高価格帯を牽引しており、多くの企業がベンチマークにしている」(業界関係者)と評されるほど存在感を増している。

同社はI-neと同様にデジタルマーケティングや商品企画に特化したファブレスメーカーで、ECで商品をバズらせる戦略も似ている。流行り廃りが激しく、商品のライフサイクルが短いとされるヘアケア市場は、常に目新しい新商品でシェアを取り続けなければいけない難しさがある。

さらに大手メーカーもシェア低下に甘んじてはいられないと、攻勢をかけている。4月に花王は主力ブランド「エッセンシャル」から、髪を「バリア」するコンセプトの高単価な新商品を発売。おしゃれなパッケージに刷新し、得意のマスマーケティングを展開する。

ユニリーバの「ラックス」やP&Gの「パンテーン」のシリーズからも、化粧品のような”情緒的価値”に訴える商品が続々と現れ始めている。後追いは否めないものの、大手メーカーは力勝負で首位奪還競争に力を入れる。

I-neは2025年までの中期経営計画で、次の事業柱としてスキンケア市場への参入を強化する方針を掲げる。M&Aも活用しながらD2C(消費者との直接取引)領域などを攻め、EC強化を進めるなど多角化を進める。

だが最近は大手メーカーもEC分野の投資を強化している。I-neが得意とするデジタルマーケティングで、すでにレッドオーシャンのスキンケア市場も開拓できるのか。そして高価格帯シャンプーのパイオニアとしてトップを走り続けることができるのか、これからの真価が問われている。

伊藤 退助 東洋経済 記者

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いとう たいすけ / Taisuke Ito

日用品業界を担当し、ドラッグストアを真剣な面持ちで歩き回っている。大学時代にはドイツのケルン大学に留学、ドイツ関係のアルバイトも。趣味は水泳と音楽鑑賞。

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