「反リベラリズム」が、日本を息苦しくしている 「日本のリベラリズムの危機」を考える<3>

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天皇はこれまで模範的ともいえる程に、国民に対して慰めと慈しみを表してきたため、国民の天皇と呼ばれている。天皇は1月18日に4年ぶりに相撲を天覧したが、彼があいさつをすると全観衆が立ち上がって拍手をしながら喝采を送った。深い愛着の表れともいえるこの光景は、天皇に対する国民の尊敬を物語っている。

天皇の言葉は、安倍首相が主導する右傾化の流れと、その行末についての多くの日本人の懸念を代弁している。2014年12月の衆議院における自民党の勝利は、安倍首相に対する是認というよりも、むしろ反安倍派に対する告発だったが、安倍首相は今、自らの今後のイデオロギー的な見通しを認識せざるを得ない立場に立たされている。投票率は戦後最低の52%を記録し、世論調査では国民がアベノミクスに盛り込まれた景気回復の実行を求めており、憲法改正や日本の安全保障上の役割の拡大にはほとんど関心をもっていないことが示されている。この意味で、天皇は権力に対して真実を語りかけたのだと私は思う。

右派は痛ましい過去を考察することなく未来を手に入れようとしており、一方左派は、70年にわたり近隣諸国から日本を分断している過去を、悔恨をもって謙虚に理解することで前進しようと考えているように思われる。

多くの日本人は中韓政府を恐れている

21世紀において、多くの日本人は戦争加害者であることに疲弊し、中韓政府が日本を歴史の鉄床に容赦なく打ちつけることを恐れている。未検証の過去の歴史問題を軽率にも葬り去ろうという日本の取り組みは、たしかに国家主義的な熱狂を焚きつけるファクターになっているが、皮肉にも近隣諸国に政治的・外交的なアドバンテージを与えていることも明らかだ。

日本のメディアは、たとえその結果が必ずしも示唆に富むものではないとしても、歴史問題についての議論に意欲的に取り組んでいる。このことは大きな強みだと思う。しかし、非常に息苦しくなっている。反リベラルの情勢下で、自分たちと相容れない意見を表明する人々を威圧し、攻撃し、時には暴力に訴えてまでその声を封じようとする恐ろしい集団がいる。そうした集団の標的になりたくないと、多くの記者は考えている。

1990年には、日本の戦争行為に関して昭和天皇に責任があると示唆する発言をしたことにより、長崎市長が襲撃された。したがって、このような恐怖には根拠があるといえる。保守主義の代表といえる政治家たちが、脅迫的な気分を助長している過激集団や犯罪集団とつながりをもっているという事実には当惑させられる。

安倍首相に対するブレーキ役となるべき民主党は、2012年選挙における壊滅的な大敗以降、混乱状態にあり、2014年選挙でも平凡な結果に甘んじている。

2009年選挙で、民主党は大勝利を遂げたが、これは主に広がり続ける格差に対する日本人の不安によるものだ。格差は、日本に浸透した平等主義の規範と価値にそぐわない状況であり、戦後の雇用の安定に対する重点的な取り組みと矛盾する。

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