これからのSFが考えるべきこと SF作家・小松左京氏①

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こまつ・さきょう 1931年大阪生まれ。SF作家。京都大学文学部卒業。経済誌記者などを経て、62年にSFプロデビュー。73年発表の『日本沈没』は400万部を超えるベストセラーに。代表作に『復活の日』『果しなき流れの果に』『首都消失』など。大阪万博や花の万博のプロデューサーも。

僕がSF(サイエンス・フィクション)小説を書くようになった理由の一つは、科学が面白かったからです。地球物理学や生命科学、宇宙論など、幅広い分野で新しい発見が次から次に出てくる。それらを学び、小説として描くことは、とても楽しかった。

 しかし、使い方によっては、科学はものすごく恐ろしいものも生み出してしまうということも、戦争を通じてわかっていました。原子爆弾を体験しているのは、人類始まって以来、日本人だけ。それも2発もです。水爆でも第五福竜丸事件で日本人船員が被曝し亡くなっています。

空想の産物だと思っていた原爆も、現実のものになるのです。科学の発達が人類文明にもたらした意味は何か、僕はSFを通じてそのことをずっと考えてきました。

これからのSFが考えるべきこと

科学小説を書くのは厄介なことでもあります。小説『日本沈没』で、日本列島が沈むにはどれくらいのエネルギーがいるか、日本列島の重さを計算するために高価な電卓を買いました。理論的裏付けとした「海洋底拡大説」は、発表されて間もない最先端の地球物理学理論でした。

『復活の日』では、まだ一般的ではなかったウイルスについて勉強し、インフルエンザを悪用するバイオテロの恐ろしさと、冷戦時代の国家間の自動防衛システムの愚かしさを描きました。

コンピュータの発達も、1980年代のマイコンの登場時代には「情報デモクラシー」と喜んでいました。が、その後の集積回路のすさまじい発達スピードは、人類社会のコミュニケーションシステムを大きく変えました。そして人類の思考パターン、言語機能、人間関係などで、今まで経験したことのない影響を、すべての世代に与えつつあります。

これからのSFが考えるべきことは、科学が人間をコントロールするようになったらどうなるか、ということです。今、ロボットは「ICチップ」という形でごく自然に私たちの生活に入っています。それらをコントロールしているのは人間です。ロボットに生命はありません。

しかし今後は、生命はないが知性はあるという機械ができるのではないかと考えています。小説『虚無回廊』で、AE(人工実存)という、人間の意識を移したコンピュータを登場させましたが、そういうもののことです。こうした機械が人間をコントロールするようになったらどうなるか、そのとき人類はどうしたらいいのか、これはSFで大まじめに考えるべきことと思っています。

週刊東洋経済編集部
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