若い人は生々しい歴史を学んで

SF作家・小松左京氏④

こまつ・さきょう 1931年大阪生まれ。SF作家。京都大学文学部卒業。経済誌記者などを経て、62年にSFプロデビュー。73年発表の『日本沈没』は400万部を超えるベストセラーに。代表作に『復活の日』『果しなき流れの果に』『首都消失』など。大阪万博や花の万博のプロデューサーも務めた。

今の日本の若い人には、もっと生々しい歴史を学んでほしいと思っています。

 僕は小・中学生のときに戦争を経験しました。いちばん怖かったのは、食べるものがないという飢餓体験です。終戦になった中学3年生の食べ盛りのころは、1日わずか5勺(90ミリリットル)の外米と、虫食い大豆や虫食いトウモロコシ、ドングリの粉ぐらいしか食べられませんでした。消化の悪い炒り豆を食べては水を飲んだので、しょっちゅう腹を下し、毎日フラフラでした。

そんな飢餓体験が、僕の処女長編小説『日本アパッチ族』の基になっています。「アパッチ族」と呼ばれるくず鉄泥棒が、鉄を食う「食鉄族」となって、鉄でできている物を片端から食いまくり、日本人の生活を脅かしていくという荒唐無稽なストーリーです。

地球は決して生物にやさしくはない

執筆当時、極貧生活で、唯一の娯楽だったラジオさえも質に入れなければならなかった妻を喜ばせるために、夢中で書いたものです。

日本は幸か不幸か地震の多い国です。1995年1月には、阪神大震災で6000人を超える人が亡くなりました。若い人はこうしたつらくとも生々しい歴史から学ぶという訓練を、自ら進んでやってみてほしい。

阪神大震災のあった早朝、僕は大阪・箕面の自宅で寝ていました。庭の石灯籠ががらがらと倒れ、すぐに跳ね起きた。テレビの映像を見て、多くの公共建造物やインフラが、こんなにももろいのかと愕然とした。現場を見て回り、可能なかぎり検証したいと痛烈に思いました。

4月から新聞で、宇宙の話の連載をする予定でしたが、急きょ、阪神大震災の企画に切り替え、現場を歩き、多くの人たちの声を聞き、専門家と話し合いました。たいへんつらいことでしたが、必死の思いで1年間の連載を終え、翌年6月に単行本『小松左京の大震災’95』としてまとめました。

 最後に環境問題について触れましょう。自然の姿を虚心かつ精密に見ていくと、決して優勝劣敗や適者生存で生物が残ってきたという証拠はありません。生物種はあるとき大絶滅をするけれども、そのうちのいくつかが途絶えないで、次の世代の多様性を生み出してきました。

残ったのは、優れているからとか強かったからではなく、ただ運がよかっただけです。

地球は何回も大変動を繰り返していますが、それでも生命は絶えませんでした。「地球にやさしく」とよく言われますが、地球は決して生物にやさしくはないのです。環境問題には、このような地球上の生命の一つとして人類をとらえる視点を持つことも必要でしょう。

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