上司が得意げに言う「主体性を持て」のワナ ああ、それも思考停止ワードです!

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「見つけたら、自分でやったほうがいいですよね」

吉岡「私の知っている人では、金融関係に長年勤めていて、海外送金手数料が15%とかすごく高いことに気づいた人がいる。彼は、途中で辞めて、自分で海外送金の会社を興したんだ。送金料を格安にすると、貧しい移民労働者が母国への送金に使ったりできる。ちりも積もれば山となるで、多額のおカネが手元に残り、それを貸し付けて利益を出す」

「すごくよく考えられたシステムですね」

吉岡「これだって、送金料を何%にすれば採算が取れるか、顧客に貧しい移民労働者が見込めるかもしれないとか、かなり経験を積まないと気づかないだろう? 会社の業務をこなしながらも、そういうことをつねにウォッチしているんだね」

「会社に取り込まれないで、自分なりの考えを持つ。ホント主体性ですね」

吉岡「もちろん独立しないで、そういう送金システムを自分の会社で実現したっていいんだよ。利益が十分に出るなら、会社だって受け入れてくれる。利益が上がるなら、会社だって利用価値が大きいし、仕事の規模も大きくなる。そういう意味で、主体性や独立性は別に反会社的じゃないけど、会社のシステムとは別に仕事を作れるという能力は大切だし、創造的だと思うな」

「ウオーッ、何だかやる気が出てきました」

吉岡「ホントに新しい世代なら、新しい仕事を作り出せるはずだよ」

 

そもそも資本主義は、個人の独立性が基にあって発展してきた経済システムです。斜に構えて会社のシステムを見るだけでなく、その持っているダイナミズムを生かすために、会社には完全に取り込まれないで、自己の判断を貫く。それは、当面の会社でうまくできなくても、次の局面や展開に役立つはずです。その志を持ち続けることが「主体性」なのです。

これまで3回にわたって、職場のありがちなマジック・ワードを取り上げてきました。マジック・ワードに翻弄されず、主体性を持つためには、慌てずにその分析から始めねばなりません。そんな作業を続けているうちに、自分を取り巻く状況が見え、それを突破する新しい解決のアイデアが出てくる。マジック・ワードをきちんと考えることは、世の中のからくりに意識的になって、自分の立ち位置を明確にすることにつながります。ぜひ、頭の片隅に置いてみてください。

吉岡 友治 VOCABOW小論術校長

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よしおか ゆうじ / Yoshioka Yuji

VOCABOW小論術校長。仙台市生まれ。東京大学文学部社会学科卒。シカゴ大学大学院人文学科修了。専攻は演劇と文学理論。駿台予備学校・代々木ゼミ ナールで20年にわたり国語・小論文の講師を務めた。日本語における小論文メソッドを確立し、ロースクールやMBA志望者に論文指導を行う一方、各地の 学校・企業・コンサルタントを対象に、論理的表現の研修も行っている。明晰な文章分析メソッドを適用し、社会論や芸術論、マジック・ワード論などの分野 で活動している。

『だまされない〈議論力〉』(講談社現代新書)、『いい文章には型がある』(PHP新書)、『必ずわかる!○○主義事典』(PHP文 庫)、『東大入試に学ぶロジカルライティング』(ちくま新書)、『社会人入試の小論文 思考のメソッドとまとめ方』(実務教育出版)など著書多数。最近で は、インドネシア・バリ島にも仕事場を持ち、東京とバリとを往復するプチ・ノマド的な活動を展開している。

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