アメリカ流「良き妻」の、ズルさとたくましさ ある日突然、エリートの夫が犯罪者に!?

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経済的に自立した彼女は、一歩下がってスポットライトを浴びる夫に付き従い、良き妻、良き母をアピールする必要はない。事務所のウィルとはお互いに好意を寄せ合っているので、離婚して不実な夫とはきっぱり縁を切り、新たな人生を歩めばいいと思う視聴者もいるだろう(ウィルにも問題はあるのだが)。

一方で、夫婦の間には夫婦にしかわからないことがあるわけで、アリシアにとって夫と子どもたちと過ごした時間はかけがえのないもので、簡単に捨て去れるものではないだろうことは容易に想像できる。しかも、シーズンが進むにつれて、アリシアの仕事にとってピーターは、より利用できる人材となっていくのだから事情は複雑だ。

絶対的、半永久的な安定や安心はない

人生の難しい決断を、一度に迫られることになったアリシアの姿は、決して他人事ではないはずだ。今の時代、どれほど人がうらやむような生活を送っていたとしても、絶対的かつ半永久的な安定や安心などといったものはないと思ったほうがいい。

だからこそ、専業主婦がステータスという感覚が筆者にはどうにもしっくりこないのだが、それもこれも女性を取り巻く働く環境が、日本では旧態依然としており、相変わらず女性にとってはしんどいものなので、安心できる家にいたいというのは自然なことなのだろうか。そして、働きたくとも一度辞めたら復帰することがあまりにも困難な環境が、とりわけ若い女性たちを、はなから安定志向や専業主婦願望に向かわせてしまうのだろうか。もちろん、筆者は専業主婦を全否定しているわけではないし、誰もがビジネスパーソンたれと言っているわけではない。

本作は法廷ドラマに政治や恋愛がからんだ娯楽作だが、アリシアの境遇と生き方は女性にとって考えさせられることは多い。また、上昇志向の強い男性の視点から見れば、野心家ピーターの再起を賭けた闘いと、アリシアや家族との関係性は興味深いものがあるだろう。

『グッド・ワイフ』のDVDはシーズン3までリリースされている(本国ではシーズン5が放送中)。現在、NHK BSプレミアムでシーズン3が再放送中で、4月からシーズン4が日本初放映となる。シーズン1からは想像もつかない展開をたどっているので、気になる人は今のうちからキャッチアップしておきたい。

今 祥枝 映画・海外ドラマライター

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いま さちえ / Sachie Ima

東京女子大学文理学部卒。大学在学中、専門学校で映画製作の基礎を学び、卒業後は出版社で雑誌編集業務に携わる。28歳で映画・海外ドラマを専門とする現職に。『BAILAバイラ』で「今ドキ シネマ通」、『日経エンタテインメント!』で「海外ドラマはやめられない!」ほか、女性誌・情報誌・ウェブ等で連載中。著書に『海外ドラマ10年史』がある。

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