近代以降、中国が欧米や日本に敗れ続けた理由 国民国家という圧倒的不利なシステムの代償

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世界史のメイン・ステージ、交通の幹線は、大航海時代を経て、すでに大陸から海洋に変わっていました。それは、14世紀のモンゴル帝国までのような、遊牧・農耕の生態環境と気候変動がダイナミズムを与えていた時代とは異なる段階に、中国史全体が入ったことを意味します。

中国史も明朝以降は、海によって左右される時代に突入したのです。明朝の盛衰も海洋貿易の消長に大きな影響を受けました。清代も同じことがいえます。

近代以降、中国が苦悩し続ける理由

17世紀の中国はデフレ不況でした。18世紀は逆にインフレ好況になっています。それも海外貿易が盛んだったどうかに動かされた結果です。そうした様相は、19世紀の近代西洋の世界制覇の時代ともなれば、いよいよ明らかになってきます。

中国近代史には、教科書に載っているだけでも、おびただしい史実・事件があります。アヘン戦争から日清戦争・日中戦争に及ぶ対外戦争、太平天国や義和団など、頻発した内乱、工業化や通貨統一など、経済の近代化への苦闘、そして中国革命の発動。とても覚えきれるものではありません。しかしそのほとんどは、外国との関わりとせめぎ合いを抜きに考えられないものです。

産業革命以後、全世界的に機械制工業と化石燃料の利用が普及しました。そのために現代人は、生態環境と気候変動が影響を及ぼした歴史をつい忘れてしまいがちです。

しかし前回からみてきましたように、季節・気温の変化に伴う環境条件、それがもたらす衣食住のバリエーション、生産・流通のサイクル、経済・政治の組織編成は、特徴ある中国の歴史を形づくってきました。

それが多元的分散的な中国社会の基本条件をなしていますが、欧米・日本という凝集的集権的な近代国民国家と対峙すると、繰り返し苦杯を喫する原因にもなりました。そうした経験を経るなかで、自らの基本条件を再編して、現代の中国が生まれてきたのです。

ですから、現代中国をみるには、近代欧米の国民国家をスタンダードにするだけでは、十分ではありません。アジア・中国がたどってきた生態環境・気候変動による歴史の変遷を併せて考えることが不可欠なのです。

現代中国の特異な政治体制、経済構造は、通り一遍の政治学・経済学の理論では解けない問題ばかりです。中国史の展開から見直すことが、変転常なしの現代世界に向き合うために、何よりも必要ではないかと思います。

岡本 隆司 京都府立大学文学部教授

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おかもと・たかし / Takashi Okamoto

1965年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。『属国と自主のあいだ』『明代とは何か』『近代中国と海関』(共に名古屋大学出版会)、『世界史とつなげて学ぶ中国全史』『中国史とつなげて学ぶ日本全史』(共に東洋経済新報社)など著書多数。

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