《財務・会計講座》株式時価総額を「創る」ことはできるか~ライブドアの蹉跌を振り返る~

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■長期的な時価総額の上昇には地道な企業価値向上が重要

 ファイナンス理論に照らしてみると、ライブドアの蹉跌は「株式時価総額」を重視しすぎたことにある。株式時価総額は短期的にはつくることは可能である。高いPERを活用し、当期純利益を増加させることによって時価総額を拡大させる方法だ。
 しかし、株式時価総額の源泉はあくまでもバランスシートの左側にある事業や資産が生み出す価値である企業価値にあるため、企業価値そのものを向上していかない限り長期的に時価総額を拡大させていくことはできない。
 なぜならば、企業価値は企業が保有する事業・資産が生み出すフリーキャッシュフローの価値であり、生み出された価値は有利子負債の提供者に優先的に分配され、株主はその残りもの(これが株式の時価総額))にしか権利を持たないからである。企業は、地道に企業価値を向上させ、ステークホルダーに相応の分配を行っていく過程を通じてはじめて、株主の持分も増加させていくことが可能となる。
 企業は、法律的には所有者は株主となるが、企業価値の拡大を通じて社会に貢献していく存在という観点からは、株主を含めたステークホルダー全員のものと考えるべきであろう。

 ところで、当期純利益の成長率が落ちた場合、株価に対する影響は極めて大きい。
 例えば、上記のライブドアの場合、利益成長率が仮に10.5%から6.5%に低下するとPERは20倍(=1/(11.5%-6.5%))となる。 株価はPERが100倍の時と比べて5分の1になるが、実際にはもっと急激な落ち込みを見せる。
 成長力の高い新興企業は、株式公開直後に100倍から200倍といった極めて高いPERをつけることが多い。これは高い利益成長性を期待されているためである。だからこそ、このような新興企業が、突然業績の下方修正を行ったり、発表した業績見込みが株式市場の期待を大きく下回った場合には、株価が大幅にかつ急速に下落するケースが多い。これは、上記のPERの式(*1)からみても当然である。
 どの企業もいつかは事業が成熟し、PERは20倍程度以下に落ち着いていく。株式市場や投資家の期待をうまくマネージし、株価の急落というハードランディング(この場合往々にして株式市場からの退場を伴うことが多い)を回避し、軟着陸できるようにするのが、CFO(最高財務責任者)の腕の見せ所と言えよう。
《プロフィール》
斎藤忠久(さいとう・ただひさ)
東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業後フランス・リヨン大学経済学部留学、シカゴ大学にてMBA(High Honors)修了。
株式会社富士銀行(現在の株式会社みずほフィナンシャルグループ)を経て、株式会社富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所株式会社)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。
その後、ナカミチ株式会社にて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。
その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役を経て、現在株式会社エムティーアイ(JASDAQ上場)取締役兼執行役員専務コーポレート・サービス本部長。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2007年4月13日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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