《財務・会計講座》株式時価総額を「創る」ことはできるか~ライブドアの蹉跌を振り返る~

《財務・会計講座》株式時価総額を「創る」ことはできるか~ライブドアの蹉跌を振り返る~

株式時価総額で世界一の会社にする--。その目標に近づくために、M&Aを繰り返したライブドア。2004年後半には、PER(株価収益率)が100倍に近い値となり、時価総額は約8000億円にまで増加した。

■PERが100倍だった当時、期待された利益成長率は10%に及んだ

 株価は、1株当りの税引き後当期純利益とPERとに分解できる。たとえば1株当たり当期純利益が1万円の会社の株式は、PERが100倍であれば100万円の株価で取り引きされる。

 PERは、理論的には1/(株式の期待収益率-当期純利益の成長率)で表される。なぜならば、以下のようにPERの求め方の式を変形できるからだ。
 PER=株価/1株当り当期純利益
   =株式時価総額/当期純利益
   =〔当期純利益/(株式の期待収益率-当期純利益の成長率)〕/当期純利益
   =1/(株式の期待収益率-当期純利益の成長率)  --*1


 ライブドアのPERが100倍ということは、「株式の期待収益率−当期純利益の成長率」が0.01つまり年率1%ということを意味する。
 ところでライブドアの株式はリスク(株式ベータ)が大きいことから、その株式の期待収益率は当時で11.5%程度となっていた。
 上の式の中では、
 株式の期待収益率(11.5%=0.115)-当期純利益の成長率=1%(0.01)
 当期純利益の成長率=0.115-.01=0.105(10.5%)
 つまり、当時の市場がライブドアの当期純利益が年率10.5%で成長するものと期待していたことを意味する。

 ここで重要なのは、今後数年間ではなく、未来永遠に当期純利益が10.5%で成長することが期待されていたという点である。
 果たしてこのような長期にわたる大幅な利益成長は維持可能であろうか?

■高いPERを利用して時価総額を増やす方法はやがて行き詰まる

 ライブドアは利益成長を維持するためにM&Aを積極的に行った。それも「錬金術的M&A」である。
 1億円の当期純利益を持つ会社は、PERが20倍であれば20億円でその株式全部を買収できる。買収された会社がライブドアに連結された途端、1億円の当期純利益の時価は20億円から100億円に化ける。ライブドアのPERは100倍なので、当期純利益が1億円増加すれば、ライブドアの時価総額は100億円増加することになるからである。
 したがって、ライブドアの戦略は「安い会社を買収し連結することによって自社の株式時価総額を飛躍的に増加させていく」ことであった。
 通例では、M&Aの目的は事業の統合によるシナジー効果、つまり統合された企業の企業価値が両社の単純合計よりも高まるようにすることにある。しかしライブドアは、PERの違いによる錬金術的M&Aをその主目的としていたといってもよい。さもなければ、インターネット関連事業を主要ドメインとするライブドアが、会計ソフト会社である「弥生」をはじめ、本業とは関連性が見られない会社を買収した理由付けができないのだ。

 しかしながら、このような「安い会社」はいつまでも見つけられるわけではなく、またそのような買収を継続していくといわゆるコングロマリット・ディスカウントが表面化することになる。コングロマリット・ディスカウントとは、企業グループの合計価値が、その傘下企業の個別の価値の合計を下回ることである。なぜそうなるかというと、シナジー効果による価値の向上が見込めない上、優良企業のキャッシュフローが、グループ傘下の他の採算の悪い会社の事業に投資され、結果としてグループ全体の企業価値を損ねるリスクが高い--と市場から判断されることによる。
 投資家から見ても、シナジー効果のない多角化はポートフォリオによるリスク分散の観点からは全く価値がない。シナジー効果のないまま多角化された企業の株式を購入するよりは、個別の会社の株式を購入したほうが機動的にリスクを分散できるからである。

 ライブドアは安い会社を購入し続けることで自社の時価総額を増加させていったが、これは自転車操業的なオペレーションであり、いつかは破綻せざるを得なかった。
 このような錬金術的オペレーションに行き詰まったため、会計原則や有価証券取引法すれすれの行為に手を染めてしまったのだ。ライブドアが行った行為は、個別に見れば法律的には明白な違反とはいえないものが多かった。しかしながら全体を重ね合わせていくと、その意図は立法趣旨からみれば極めて問題のある行為であった。透明なプラスティック板でも何枚も重ねていくといつかは黒くなるようなものである。
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