学生に伝えたい、会社選びのイロハ 働くために「やらない」こと

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「コミュニケーション力」はなかなかとらえどころのない言葉です。誤解を恐れず一言で言い切れば、就職活動で必要なコミュニケーション力とは「相手に合わせる力」です。面接官を不快にさせず、期待される答えを返し、グループディスカッションでうまくまとめて合わせる力です。

でも私はこの「相手に合わせる力」というものが、キャリア全体を通して役に立つとはあまり思いません。なぜなら、合わせる力というのは、それ以上の価値を生まない力です。合わせる力というのは、悪く言えば太鼓持ちの力です。キャリアの初期は太鼓持ちをしながら相手の第一印象をコントロールするというのはありかもしれませんが、どこかでそのステージを脱却しなくてはいけません。誰からも好かれようとする人は、誰からも信頼されない人です。

単純作業から学ぶプロフェッショナリズム

そもそも会社選びで、すべてにおいて満足いく会社というのは(ないわけではないと思いますが)かなりまれなものです。しかもその満足加減も、いかにヒアリングや業界・企業研究をしたとしても、結局は入ってみないとわかりません。冒頭で述べたように、ランキングなど一番当てにならないものです。

それではよい会社選びとは何かというと――大体労働というのは国民の義務なので自分探しだとかつべこべ言わずに――、とりあえずでも受かった企業に何でも入ってみることだと思います。どんな仕事も見方によっては面白い部分もつまらない部分もあるわけです。退屈な仕事もハードな仕事でも、別の面からみれば楽な仕事でも成長できる仕事でもあるわけです。結局、仕事での満足度を決めるのは仕事そのものの問題ではなく、取り組む自分の問題ということだと思います(もちろん巷間うたわれている実態違法のブラック企業も確実に存在するので、それらの企業にかかわった場合に上記は当てはまりません)。

私は若手時代、ある報告書の参考資料でパワーポイント200ページのグラフ集を作成したことがありました。報告会前日の印刷直前の深夜だったと思いますが、グラフの凡例の位置がそろっていないということで、そこから徹夜ですべて直すことになりました。その段階ですでに私は二徹目でした。コピペを何百回と繰り返すという単純作業の苦痛さもさることながら、報告書の価値に直結しないそうとう不毛な作業です。

でも自分が作った(修正した)内容が顧客の社長が直接見るということは、若手の自分にとってとても身が引き締まる貴重な機会でもありました。レイアウトを隙なく完璧にするという、ディテールにまでこだわるプロフェッショナリズムを実感できた機会でもありました。

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