日本の立憲君主制は世界から遅れているのか 欧州中心に男女同権になりつつある

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――生前退位は日本ばかりではないわけですね。

2016年8月8日の天皇陛下のお言葉が午後3時から地上波すべてで放映され衝撃的だった。欧州では、2013年1月28日にオランダのベアトリクス女王(当時74)が33年の在位を終える譲位のビデオメッセージを国民に送り届けている。同じ年の7月にはベルギーのアルベール2世(79)、翌2014年6月にはスペインのフアン・カルロス1世(76)が「同じ道」をたどった。

君塚直隆(きみづか なおたか)/1967年生まれ。英オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ留学。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程修了。東京大学客員助教授、神奈川県立外語短期大学教授などを経る。専攻は英国政治外交史、欧州国際政治史(撮影:大澤 誠)

これらの方々は20代からの陛下の友人であり、同世代。陛下のお言葉にはベアトリクス女王の原稿と重なるところもある。たとえば国民に寄り添い、苦楽を共にし、とても幸せだったとの主旨のところ。参考にされたのではないか。

陛下や日本は決して孤立しているわけではなく、天皇としては30年だが、皇太子時代を含めれば60年に及ぶ友人知己が世界にいる。王様は孤独な一方、公務が同じように課せられる。そこから自分も潮時だと思われたのだろう。

――今は民主政治が当たり前になっています。

もちろんそうでない国もまだある。雑誌の「最悪の独裁者たち」と題された特集を眺めると、その人たちの肩書はほとんどが大統領で、王様は1人としていない。いくつかの国は王様を自分たちの手で追い落とし、その大統領を自ら選んだ。しかしデモクラシーのはずがいつしか独裁になり、逆に差別と弾圧を行う「共和国」になり下がった。

君主世襲は生まれながらにして王位が確定し、デモクラシーとは相いれないはずだが、実はその地位につく人のほうが時流をわきまえ、世界の現実を認識している場合がほとんどだ。絶対君主や専制君主ではなくて、「象徴君主」として議会、政府、裁判所とタイアップしながらかかわっていく。もちろん実権は彼らに託すが、いざという時にはかかわり方も強まる。現実にはこのほうが健全に動く。

その国の伝統や文化を担い続けてきた王室

――多くの王室は外交にもかかわっています。

王室はその国の伝統や文化を担い続けてきた一族。各種の団体や組織の長として芸術や学術の振興にかかわり、その面でも詳しい人が多い。経済面にもかかわる。たとえば英国の場合、チャールズ皇太子や弟のアンドリュー王子は経済界の代表を数百人引き連れて、自国の通商や産業の振興のために世界を回ることもある。アンドリュー王子はドバイ地下鉄の受注で活躍したとか。

最近の事例では、オランダのウィレム・アレクサンダー国王夫妻が平昌(ピョンチャン)五輪に参加したついでということで中国を公式訪問。習近平主席や李克強首相に会って通商の話もしている。欧州では国王、王妃、あるいは皇太子にビジネスに深くかかわる人が多い。文化や歴史の宣伝者であると同時に、ほどほどの距離で政府の活動の穴を埋める役割を担う。

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