東京の格差、「災害復旧が遅い地域」はどこか もう想定外とは言わせない…東大教授の挑戦

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モデル構築でもう⼀つの問題は、インフラのデータがなかなか⼿に⼊りにくいということだ。たとえば電⼒。各電⼒会社とも送配電設備の詳細は、⾮開⽰になっている。万が⼀、テロリストなどに襲われるようなことがあれば、たちまち電⼒は⿇痺するからだ。研究⽤といえどもそのデータは公開してくれない。電話など通信網に関しても、もちろん各社は細部までは公開しない。道路情報にしても地図はあるが、何⾞線かとか信号の仕様といった情報はない。もしこういう情報があったとしても、それをデータとして⼊⼒するのはカネも⼈⼿もかかる。

古田一雄・東京⼤学⼤学院⼯学系研究科レジリエンス⼯学研究センターセンター⻑・教授(写真:Ryoma K.)

古田教授は⾔う。「このシミュレーションを元にして対策を⽴てる、たとえばどこに物資の集積所を置くとかいうのであれば、もっと細かいリアリティが必要だ。しかし政策決定の⽀援として使うなら、それほど細かいリアリティは必要ないと考えている」政策決定の⽀援とは、こういう事象が起こるので、こういう法律をつくるとか、異なるセクター間の連携組織が必要だというようなことだ。このような定性的な提⾔をまとめる分には、あまり細かくなくても⼤丈夫だと古田教授は⾔う。

この研究をさらに進展させる上では、やはり最も必要なのはインフラのデータだ。しかしそれぞれのインフラの管理者の⽴場からすれば、詳細なデータを提供するのは難しい。電⼒や通信、上下⽔道などでも、それぞれに万全を期してやっているのはよくわかる。それだけに「壊れたらどうするかは考えたくないのだろう」と古田教授は⾔う。

それにもう⼀つ、と古田教授は付け加えた。「危機管理は想定通りに⾏かなかったときに責任を問われない」ことが必要だという。すべて対策が出来ているから⼤丈夫だと答えなければならないという⾵潮をなくすべきだという。「もしものことがあるかもしれません、と⼝が裂けても⾔えない⾵潮が⽣まれてしまう」

本来は国家プロジェクトで

もう⼀つ欲を⾔うなら、こういった研究は、本来、国家的なプロジェクトで⾏われるべきだともいう。たとえば⽶国では、DHS(国⼟安全保障省)が資⾦を出して、⽶国国内だけでなく世界中の⼤学に研究をやらせている。それだけではない。DOE(エネルギー省)の国⽴研究所では、かつて原⼦⼒のシミュレーションをやっていた研究者たちが、こうしたインフラの相互依存性解析をしている。

そういった観点からこのプロジェクトを⾒ると、もはや「予定調和」の世界ではないと感じる。古田教授は、このプロジェクトの成果を発表するときにこう⾔ったと聞いた。「もう想定外とは⾔わせない」。これこそわれわれが肝に銘じておくべき⾔葉かもしれない。

【取材協力】
⾕⼝ 武俊 東京⼤学政策ビジョン研究センター教授(プロジェクトメンバー)
菅野 太郎 東京⼤学⼤学院⼯学系研究科准教授(プロジェクトメンバー)
藤田 正美 ジャーナリスト

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ふじた まさよし / Masayoshi Fujita

1948年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年から2000年まで同誌編集長。2001年より同誌編集主幹を務め、2004年に独立。日米のメディアを知る経歴を活かして、より冷静で公正な視点を求めて活動中。

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